胸ポケットの中からお母さんがいろいろうるさい

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俺はスミレ先生の手を引き、殺風景な校舎の屋上に上がった。 冬晴れの朝日が、すぐ隣にそびえる高層ビルをピンク色に照らしている。 屋上から見下ろせる学校プールの水面に映ったビルがゆがんで揺れていた。 冷たい風が俺と先生の間を吹き抜け、先生の長い髪をさらう。 もうすぐ、体育館で二学期の終業式が始まる。 式に出ようとする先生を強引に引き留めて、俺は今、男としての一世一代の大仕事をやり遂げようとしていた。   「スミレ先生、俺は先生のことがもっと知りたい」 俺は先生にきっぱり言い放った。 「太郎君。そういうのはよくないよ」 スミレ先生は大人の愁いと艶を帯びた目で笑った。 (ふん。たいして美人でもないわね。もう少しで鼻の穴から鼻毛が出そうじゃない) 母さんが突然、ひそひそ声で言った。先生に声が届かないのをいいことに、母さんは面白がっている。 ───母さんは俺の胸ポケットから見てるから鼻の穴がよく見えるだけだろ 心の中だけで言い返した。
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