胸ポケットの中からお母さんがいろいろうるさい

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自分の制服の胸ポケットをぎゅっと掴んでその中身を握りつぶしてやりたい。それができたら、うるさい母さんを黙らせることができるのに。 「俺、先生のことが気になって授業が頭に入らなくてさ」 「それって一番いけないことよ。授業は真面目に聞かないとだめ。せっかくこんなにいい学校に入れたんだから」 (先生、うちの息子は授業聞いたって解るわけないんですよ。その子は先生のことを追いかけてズルして裏口入学した、ただのストーカーですよ) 俺は母に「黙ってくれ」と叫びそうになって奥歯を噛み締めた。 俺が今在籍しているのは、この西山田専門職高校の「機織りコース」。 授業に全くついていけていないのは、悔しいが母さんの言うとおり事実だ。 けれども、全国の精鋭が集まって最新の機織り技術を学ぶ集団の中にいきなり放り込まれて、まともについていけるやつが果たしているのだろうか。 だいいち俺は、「裏口入学」なんかじゃない。 俺の事情を一番分かっているくせに、「裏口入学」だの「ストーカー」だのといってからかう母さんの神経が分からない。 (太郎、あんたが言いたいことは分かってるよ。母さんはね、ただ緊張をほぐしてやろうとしてるだけよ。落ち着いて) 母さんが囁く。 「ねえ太郎君、もう終業式まで時間がないんだけど…」 スミレ先生が唇を尖らせた。
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