たとえば小鳥を飼うように

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 帰り道の途中にある公園には隅の方に何かのついでにつくったようなバスケットコートがあり、その場所にちょっと寄っていくのがぼくらのお決まりだった。  女子バスケ部のエースだったシオリのカバンにいつも入れてあるボールは、今はただ、ぼくと遊ぶためだけのものだった。  シオリがボールをアスファルトにつきはじめる。テン……テン……と音とともにボールが弾み、軽やかなステップでシオリはコートの中央に向かう。  カバンを投げ置いて、ぼくもゴールの下に向かって小走りになる。ぼくらは小動物の自然な習性のようにオフェンスとディフェンスにわかれ、暇つぶしのワン・オン・ワンをはじめるのだった。  シオリのからだが緩やかなボールのリズムで少し浮かび上がったかと思うと、次の瞬間には深く沈みこみ、ぼくの手が伸びる間もなくゴールをきめた。  入れ替わり、ぼくがドリブルをはじめると、彼女の腕は油断のないムチのようにしなり、ボールを弾き飛ばした。  ボールをおいかける彼女にぼくはじりじりと近づいた。彼女がボールを拾い上げようと身をかがめるそのときを見計らって、彼女を背中から抱きしめた。  おかしくなって、つい、笑ってしまった。布一枚へだてて感じる彼女の体温からは夏の気配がした。 「ファールだよ、それってずるいよ」  身をよじりながら、その実、シオリも笑っていた。シオリが振り返り、ぼくらは向かい合う。 「小鳥の飼い方って知ってる?」  思い出したように彼女は言った。 「まずは驚かせないこと」  そう言って、人差し指を空に向ける。 「それから、忘れずにご飯をあげること。毎日、話しかけること。たまには外に連れ出してあげること」 「それは」ぼくは思わず彼女の言葉をさえぎってしまう。 「飛んでいっちゃうんじゃないの?」 「だいじょうぶ、あなたになついているんだから、ちゃんと戻ってくるんだよ」  ぼくらはからだを引き離し、手を伸ばせば、かろうじて触れ合うだろうその距離で、向かい合った。  彼女は再び、コートに舞う。小鳥がはねるようなその姿。そういえば、とぼくは思い出す。  彼女の肢体を流れる滝のような汗。体育館のフロアをこするシューズの音はまるで鳥の声のようだった。
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