夜明けのカップラーメン

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夜勤明け、午前三時。 「ただいまァ」 寝ている妻と子どもを起こさないよう心の中でそう言って、ソロリソロリと廊下を歩く。 道路工事の冬場の夜勤。 明日から雪の予報が出ていて、今日はすこぶる寒かった。 (いや、もう日付けが変わっているから今日雪が降るのか……) 風呂場に直行し、追い焚きボタンを押して溜めっぱなしの湯を温める。かなり冷めていたのか思いの外時間がかかっている。スマホでニュースを見ながら追い焚きが終わるのを待った。湯が温まるとイソイソと服を脱ぎシャワーを浴びる。頭と身体を洗い、湯船に足を入れた瞬間… 「あっつ!」 あまりに熱く、反射的に足を引っ込めた。 湯の温度はいつも通りの42度。異常に熱く感じたのは身体が冷え切っていたせいだろう。少しすると、その熱さが気持ちよくなり湯船にゆっくり身体を沈めた。 身体の芯まで十分温まって風呂を出ると、手早くスウェットを着る。十分温まったつもりだったが脱衣所は寒く身体がぶるりと震えた。 「さてさて…」 身体が温まったら、次は小腹を満たす。そこまでが夜勤明けのルーティンだ。ゴソゴソとキッチンの棚から取り出したのはカップラーメン。 小さめのヤカンに湯を沸かし、沸かしている間に蓋を開けてスープとかやくを準備する。 ―シュンシュンシュン モワッと湯気を立てながら沸騰した湯をカップに注ぐ。すぐに箸を乗せて蓋を閉じた。冷蔵庫から発泡酒を1本取り出し、カップラーメンと共にリビングのテーブルに運んだ。いつもは妻が色々やってくれるが、まだ寝ているので自分で。 ―きっかり3分。 「いただきます」 蓋を開けるとフワッと醤油とごま油のジャンキーな香りが鼻腔を擽る。箸で麺を持ち上げるように何度かかき混ぜて、勢いよくすすった。 「うん」 こういうのでいいんだ。 いや、こういうのがいいんだ。 立ち上る湯気を顔に浴びながら、満足げに頷いた。 野菜たっぷり栄養満点な手作りご飯もいいけれど、夜明けのカップラーメンは格別だ。夜勤明けは小腹が減っているけれど、ガッツリ食べると眠れない。カップラーメンは量もちょうどいい。 たまに食べたいなと思うけれど、健康的な食生活を目指す妻は、子どもが食べたがると困るからと言うので大っぴらには食べられない。 ―プシュ 「はぁー…」 カップラーメンの合間に挟む発泡酒。これがまたたまらない。カップラーメンのジャンクな味を炭酸が爽やかにしてくれる。 リビングの一番小さな灯りの下で発泡酒を飲みながらカップラーメンをすする。 夫でも、父親でも、社員でもない、「自分」の時間。束の間、独身時代に戻ったような感覚。 たまにある夜勤は正直アラフォーの自分にはキツイ。 でも、この時間があるから頑張れるんだよな。 (我ながら安いもんだ……でも、悪くない) 食べ終わるとすぐ眠気に襲われ、カップラーメンのゴミと空き缶を片付けると歯を磨き布団に入った。 隣で動く気配がする。妻が起きたのだろう。 「お帰り。お疲れ様」 「うん…」 微睡みの中聞こえた声に安心し、ろくに返事もできないままあっという間に眠りの中に落ちていった。
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