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周りにいた厄介な面々【其之壱之壱】
前職を辞めたのは、最終的には、雇用主が今時珍しく露骨な依怙贔屓と凝り固まった思考回路やったことに辟易していたからではあるけれども、それ故に、職場にいる面子もなかなかな個性の持ち主揃いやったわけで、それでなくとも通勤時間が掛かるから疲れるのに、こいつらに振り回され、不愉快な思いをさせられ、毎日身も心も消耗していった。
雇用主に訴えても、
「彼らは、ここ以外には勤まらへんねん。我慢できひんか。」
で済まされた。
一人は、家庭が複雑というか、成長過程で苦労もあり、精神的にも色々とあったようなので、ある程度は仕方がないし、他の者がいる前でも同じような言動で裏表があるわけではないから、時にはこちらも言い返したし、言い返してもすぐに普段通りのやりとりに戻れたし、苛つくことはあっても、心底嫌悪感を抱くまでにはならなかった。
こいつは、しかるべき過程でしかるべき躾を受けてこられなかった訳で、それを分かっていて雇用したのなら、雇用主に教育する義務があるとわたしは考えていたのだが、
「無理やろ。」
のひと言で片付けられてしまった。
雑用は、アルバイトのわたしが担当していたが、元は、自分の担当する相手先に関するものは、それぞれ自身で処理しておくことになっていた。それを、外出が多く多忙でなかなか処理できない者の分はわたしが代わりに処理するようになり、それについてはわたしが申し出たことなんで何ら問題はないのであるが、裁断機にかける必要のある書類を一時的に入れておく箱を用意しておくと、大して外出もしない奴が、ビニール袋も、ホチキスの針も、クリップも、一切外すことなく放り込むだけ放り込んでいくので、
「クリップやホチキスの針をつけたまま箱に入れるな。」
と当たり前のことを書いて箱に貼っておいたら、何故かそれを片付けているわたしが咎められた。
ゴミ出しの担当も下っ端のわたしだったが、この職場の面々は、自分が楽することしか頭にない癖に自分を頭の良い人間と勘違いしているような、ミジンコ程の思考力すら持ち合わせていなかったので、わたしが貼り紙をして躾けておいたら、ある時、その紙が剥がされていた。
その貼り紙とは、ゴミ収集の仕事で有名になった漫才コンビ『マシンガンズ』の滝沢のインタビュー記事の一部をコピーしたものである。
内容は、
「ゴミ置き場が汚い会社は6年以内に潰れる」
といったものであったが、どうやら雇用主夫妻が誰かに剥がさせたようである。
まぁ、
「この職場は、ゴミが落ちていても、誰一人拾わない。」
と訴えても、
「大谷選手は拾ってるのにな。」
で済ませるような立派な雇用主である。
「わたしが拾えば済む話なんでしょうが、」
と厭味を咬ますと、それをそのまま受け取り、
「そうやな。」
で終えてしまう、とても素敵な雇用主である。
わたしが無言でブチ切れたところで、ようやくゴミの捨て方を改善しようとなったらしい。「らしい」ていうのは、わたしは毎週月曜朝の打ち合わせには参加しないからで、それを、わたし程ではないもののこの職場に馴染めていなかった者から聞いたのである。
この時、
(ほんまに6年以内に潰れたらええねん。)
と思うたのは、ここだけの話である。
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