周りにいた厄介な面々【其之壱之壱】

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 わたしは、母親が口煩かったにも関わらず肝心なことはあまり教わらなかったため、自分が歳の割にはマナーやしきたりが身に付いていないという自覚があったから、自分なりに本やサイトで調べたり、秘書検定を受けたりした。  秘書検定2級なんか、二十代ばっかりのオネェちゃんたち、そしてたまにニィちゃんといった中に、五十のおばはんただ一人。  知らんことを知らんままでおる方が恥ずかしいから、受検自体にはそんな感情はなかったけど、照れるわ。  この事務所の連中の電話の応対もあまり褒められたもんでなく、それでも雇用主曰く 「良くなった。」 そうであるが、ほな、わたしがここに入る前はどんなんやったんや。  顧客を散々待たせた後で電話口に出ても、 「お待たせ致しました。」 のひと言も言えん立派な人々である。  士業がそんなに偉いのか。ほんで、勤務しているだけでその資格すらない連中が、なんでそんな態度でおるねん。  誰に食わせてもろてるねん。雇用主ちゃうぞ。勘違いするな。  来客時にお茶を出すのも、わたしの担当ではあったが、たまたまわたしが席を外していたり、相手によっては雇用主夫人や別の者が出すこともあった。  この事業所では、お茶出しは「女がやるもの」らしく、野郎はしない。  お茶は、温度が高過ぎるのは良くない。また、湯呑みは茶托にのせて運ばない、というのは、秘書検定関係なく誰でも知っているものと思うていたが、ここの女どもは、全員お盆の上に人数分の茶托を並べ、そのそれぞれの上にお茶が入った湯呑みをのせて運んでいた。雇用主お気に入りの、曰く「頭が良い」彼女もそうしていたし、酷い奴は、急須を使わず湯呑みに直接ティバッグを入れて湯を注いでいた。  マナー本で確認していたとは言え、全員が全員間違えていると、さすがに自分を疑う。改めていくつかのサイトで調べたり、別のバイト先の同僚に尋ねたりして、自分の認識が正しいことを確認した上で、ある時雇用主に話した。  すると、雇用主は、 「それは、マナーの簡略化で別にかまへんねん。」 と言い放った。  この事業所で一番立場の低いただのバイトのわたしが物申したことが、余程気に入らんらしい。  話して損した。  しかし、かかし、やすしきよし。  どうしても納得できず、また別のバイト先の、前に訊いた同僚とは別の者に、 「例の愉快な職場で、」 と、この雇用主とのやりとりについて話し、 「わたしがまちごうてたんですかねぇ。」 と尋ねると、 「いや。職場の人らが間違ってる。めたすたは間違ってへんですよ。」 と返ってきた。  もう、常識破りと常識外れの区別もつかんこの事業所にそれを求めるのは諦めた。  ほかにも色々あったわけだが、ついにブチ切れたわたしは、ある反撃に出るのである。
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