4人が本棚に入れています
本棚に追加
§
腫れぼったい瞼を雑に拭って啓二は廊下へ出ていく。すると予想外の光景を視界端に捉えて固まってしまう。
「ンだと!?」
夏樹に付き添われていた黒部が啓二の前でひれ伏す。
「おねがいじばず真辺ざん」
「ぜんぶ聞いてたのか!?」
すべて察して憤る啓二のズボンに黒部はすがりつき、振り払われても食い下がって涙や鼻水をなすりつけた。
「戦闘チームいれてくだだい!」
「友達のキモチ無にすんのか!」
「あだいを強ぐじでくだだい!」
「ざけんなクソチビ許さねぇ!」
啓二は黒部の襟を引っ掴んで前後に激しく揺さぶり、女子高生にも眼鏡キャラにも容赦しない拳を握り込む。
「あなたに彼女を止められますか?」
真顔の夏樹が飛び込んできて啓二の腰にしがみつく。
「彼女を突っぱねる権利があるというのですか?」
「ンなもんねぇよ俺にあるワケねぇだろうが!!」
黒部の代わりに医院の壁を殴り砕くと啓二は吠えた。
「コイツは同じだ……あん時の……俺なんだッッ!!」
§
T県A市・九十九町。
山と海で挟まれた陳腐なジオラマ。
町にしては狭く墓場にしては広い。
僅か三千の人口が土地を持て余す。
多くの坂や路地が随所に陰を生む。
流動性の欠如によって澱む闇には人を喰う牙がある。
最初のコメントを投稿しよう!