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第1話 俺と結婚するか?(1)★
「結婚は人生の墓場」だの、「楽しいのは最初のうちだけ」だの――。
いつだったか社内で交わされていた言葉を、瀬名侑人は思い出していた。
二十七歳・独身という身として焦りは少なからずある。晩婚化が進んでいるとは聞くが、周囲は着々と身を固めているし、それが当たり前なのだと思わざるを得ない。
そんなふうに考えを巡らせていたら、不意に背後から声をかけられた。
「おい、また他のこと考えてるだろ」
侑人は声の主を見やって、ジトリと目を細める。悪いか、と。
すると、相手は不満げに眉をひそめた。
名は高山健二といい、一つ歳上の男である。清潔感のある短い黒髪に、凛々しい目鼻立ち。侑人より五センチは背の高いがっしりとした体型で、営業マンらしく身だしなみにも気を配っている。――まあ、有り体にいえば《イケメン》と形容するのが一番だろう。
「こんなときだってのに随分と余裕だな? 抱かれてるときくらい、俺のこと考えてくれてもいいんじゃねえの?」
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