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やがて、高山の手によって指輪がゆっくりと薬指にはめられた。その瞬間、侑人は言葉にできないほどの幸福感に包まれる。
そして高山もまた、同じ思いだったに違いない。高山の眼差しはどこまでも優しく慈愛に満ちていて、思わず見惚れてしまうほどだった。
(高山さん――)
牧師から指輪を受け取り、今度はこちらが高山の左手薬指に通す。
今日という日を迎えるまでさまざまなことがあった。本当に結婚するのだという実感を噛みしめながら指輪をつけ終えれば、牧師による宣言があり――今をもって二人は正式に《夫夫》となったのだった。
「……っ」
牧師の言葉を聞いて、侑人は目頭が熱くなった。
参列している誰もが自分たちの結婚を祝福してくれている。その事実が嬉しくて、知らずのうちに涙がこぼれ落ちていた。
こんなタイミングで泣くだなんて我ながら情けない。が、涙はとめどなく溢れてくる。
『侑人』
声には出さなかったが、高山の唇がそう動いた気がした。
高山はジャケットの内ポケットからハンカチを取り出すと、そっと目元を拭ってくれる。その優しい手つきにますます泣きそうになったけれど、侑人はぐっと堪えて顔を上げた。
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