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「……やだよ」
「なんでだよ? いいだろ、名前で呼ぶくらい」
「恥ずかしいから駄目だって」
「お願いだ、侑人――」
そんな甘い声で囁かれたら断れるはずがない。ずるい男だと思いながらも、結局のところ折れるのはこちらの方だ。
「け……健二さん」
蚊の鳴くような声で呼ぶと、高山は満足げに目を細めた。
「呼び捨てでもいいんだぞ?」
「む、無理。なんか呼びづらい……」
「じゃあ、さん付けでいいからもう一回頼む」
「けん――って、もう呼んでたまるか! 調子乗んなっ!」
顎に添えられた手を振り払い、ぷいっと顔を背ける。
高山は当然のごとくお構いなしだ。くつくつと笑って頭を撫でてくる。
「すまんすまん、嬉しくてつい。まあ、無理して呼ぶ必要もないか――時間はまだまだあるんだからな」
「まだまだ、って」
「ずっと、一緒にいるんだろ?」
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