第一章 私という女

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昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り、私はエリちゃんと共に在籍している部署のフロアへと戻って来た。 「藤澤」 「っ、はい」 デスクに着くか否かの瞬間に声を掛けられ少しだけ驚いた。私に声を掛けたのは直属の上司で係長の内野宮隼人(うちのみやはやと)だった。 「営業から連絡あったんだけど、午後からの南向通り地区のお客様明細書って誰かに渡したか」 「いえ、まだプリントアウトしていませんが」 「──だからか。午後一で出るから昼前に届けるようにと申し送りがあったはずだぞ」 「え、そうでしたか?!」 「そうだよ。朝、社内メールで回したって言ってるぞ」 「社内メールって……あの、その件の日付は明日になっていましたけれど」 「は? 嘘だろ」 「嘘じゃないです。えっと──」 慌ててスリープ状態のPCを起動させメール画面を表示して見せた。 「……本当だ。んだよ、あっちのミスじゃねぇか」 「でも午後一で要るってことなんですよね? 今すぐプリントアウトして渡して来ます」 「プリントアウトだけしてくれ。あっちをこっちに呼びつける」 「そうですか」 「内線かけるからプリントアウト、早急に頼む」 「はい」 そういって内野宮さんは自分のデスクに戻って行った。 新入社員。仕事には慣れていない半人前。だからミスしたといえばそれは大抵新入社員の責任と考えるのが普通だろう。 でも私は運が良かった。
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