第一章 私という女

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「ほら、謝れよ」 「本当にごめんね! オレのミスだった。日付間違いなんて初歩的なミスしておいて一方的に内野宮に文句いっちゃった」 「いや、おれも訊いた時点で藤澤がミスったんだと思ったからよ」 「ですよね。普通はそう考えますよ」 「あー……そう考えたことは謝る。すまなかった」 外回りに出かける営業の人と係長がふたりして同時に私に対して頭を下げたことに若干の居心地の悪さを感じた。 「いえ、それはもういいので──それより時間、大丈夫ですか?」 「あっ、そうだった。遅刻だっ! じゃあそういうことで。確かに明細書、受け取りました」 「はい、頑張ってください」 心穏やかに営業の人を見送れたのは証拠となるメールの内容をしっかり覚えていたことと── 「藤澤、お疲れさん」 「係長も。それとあんなに簡単に下っ端に頭を下げないでくださいね」 「は? 下っ端ってなんだ。そういうのは関係ないだろう。此処はチームワークでやってんだから。おれのチームに入ったからには一蓮托生。上とか下とか関係ない。悪かったら素直に謝る。常識だ」 「……ですか」 「おう。ただし、おれがミスした時はそのとばっちりがおまえにも飛んで行くがな」 「あー……ですね」 「んな、情けない顔するな。安心しろ、おれはミスをしない」 「言い切りましたね」 「言い切る。しない」 「はい、分かりました」 このいいも悪いも上司らしくない内野宮さんが頭ごなしに怒る人ではなかったことだった。
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