第一章 私という女

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「内野宮さんっていいよね」 「え?」 給湯室で会ったエリちゃんに唐突にそういわれて疑問符が浮いた。 「先刻のやり取り見てて益々そう思ったよ。ね、いいと思わない?」 「いいというのはどういう意味で?」 「もちろん男として」 「男として?」 「仕事デキるし、ワイルド系だけど優しいし面倒見も良さげじゃない」 「エリちゃん、係長のことよく見ているね」 「内野宮さんだけじゃなくて他にも色々リサーチしているよ」 「ほぇー。就職してからまだ三か月しか経っていないのに」 「もう三か月だよ。有望株は早めに手を付けておかないと」 「手を付けるって……エリちゃんこそワイルドだね」 「郁美がのんびりし過ぎてるんだよ。新入社員という肩書は一年しか使えないんだよ」 「でも会社に男の人を漁りに来ている訳じゃ──」 「甘い! 社会人になってからの出会いなんてそうそうないんだからね。手っ取り早く相手を見つけるなら社内恋愛に限るでしょう?!」 「……そう、なのかな」 「もちろん仕事もしっかりこなすわよ。その上で恋愛が並行していれば人生が潤うってものでしょう?」 「まぁ……そうなのかな」 エリちゃんが言っていることは一理あるのかなとは思うけれど、私自身、恋愛のある人生をこれまで送ったことが無い故、完全に同意するのは難しかった。 (だけどこの先、例え恋愛が出来なくても、結婚が出来なくても仕事さえ出来ればなんとかひとりで生きていけるよね?) どうしてもそんな考えが心に居座り続けてしまっているのだった。
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