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「ああ残念。もうホンットに残念。残念至極。あのバッグ、ものすごく気に入ってたのに。ねえ、外ポケットが血塗られたまま使ったら変人かしら?」
ベッドで点滴を受けながらそんなことをいの一番に言う楓子に、実香は呆れた。
いや、そんな楓子を一時でも疑った自分に。
そして自分の印象が正しかったことに、ちょっと自信を持った。バッグを大事に使う人間に、悪い奴はいないのだ。
「いくらでも直しますよ。てか、新しく作り直しましょ。まだアフターサービス期間中ですから」
ブスッとそう言う実香に、楓子は長い髪をかきあげながら不思議そうに。
「……ねえ、何か怒ってる?」
「嬉しいに決まってるでしょ!」
「え。そんなにあたしを心配してくれたの?」
「あの渾身のバッグとまだつきあいが続くってことによ!」
楓子の顔が満面の笑みになった。
「初めてタメ口きいてくれたわね」
楓子はスマホを掲げた。
「作り直してくれるなら、今度はこの写真使ったパッチワークにして!」
「こないだの以外にも思い出の写真が?」
見せられたのは、楓子と実香があのバッグを高く掲げている写真だった。楓子が嬉しそうに高揚した顔で、実香は達成感に溢れた顔で写っていた。
「素敵な思い出は、いつでも、いくらだって作れるものね」
楓子はまたストレートに爽やかな笑顔を見せた。つられて実香は、自分の口元がほころぶのを自覚した。
(終)
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