ハンドメイド作家とただの客

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昼下がりの公園のベンチには、のどかな陽が当たっていた。 秋葉がポケットから直に小銭をじゃらじゃらと取り出し、缶コーヒーのホットを買ってくれた。が、いつもの冬より暖かいはずの空気が冷やりと感じる。 まず秋葉に聞かされたのは、楓子の周りが物騒なことになっている、ということだった。 2人が刺殺され、昨日3人目の被害者が出て意識不明。そういえばそんなニュースをラジオで聞いた。仕事中はずっとラジオを流しているのだ。切り裂きジャック再来? などと煽っていたっけ。 それが、楓子の周りで起きたこと? 「1人目の被害者は彼女にセクハラしていた上司。2人目は彼女にパワハラ疑惑をかぶせた部下。3人目が元カレを奪ったいわゆる略奪女。……全てに共通するのが津田楓子さんでしてね」 ……つまり楓子が容疑者? とても信じられる話じゃなかった。 「私はただ……彼女からオーダーメイドのトートバッグを受注、納品しただけの。ハンドメイド作家です」 「バッグ? どんな?」 「帆布バッグです。外見はパッチワーク風の、このくらいの大きさの――」 「これですか?」 秋葉が写真を見せてきた。そこに、見覚えのある、というより慣れ親しんだ、我が子のように愛着のある、この世に唯一無二の実香の作品があった。 「な、何で」 「現場に残されていたものです」 息をのむ実香に、秋葉が次の写真を見せた。またそのバッグだったが、もっとアップにした外ポケット。そこに。 「凶器とみて間違いないでしょうね」 そこから突き出しているのはナイフの柄であり、ポケットの内側は赤く染まっていた。
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