ハンドメイド作家とただの客

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「キーホルダー、財布、定期、スマホ、充電器。自転車のキー、携帯消毒液、マスクの予備、絆創膏や胃腸薬にソーイング等の救急セット、化粧ポーチ、晴雨兼用傘、ペットボトル」 パステルのピンクのスーツに完璧な化粧の、いかにもデキる女という感じだった。そんな楓子が、服装に似合わぬ随分とくたびれた大柄トートから、それらを一つ一つ取り出した。 「――そのそれぞれの?」 「見合ったポケットをつけてほしいの。あと夏は冷房対策の上着、冬は手袋やストールも入れたい。お弁当も水筒もね」 「外観はどうしたいとかあります?」 「肩に負担のかからない長さの持ち手と、あと、私の思い出の服や写真や絵なんかを組み込んだパッチワーク風の模様にできる?」 実香はその要求に、鼻息が荒くなった。 「……何か怒ってる?」 楓子が怪訝そうに言ったが、実香は肩をすくめた。 「全然。全く。とんでもございません。昔から言われるんですよ、嬉しいと怒ったみたいな顔になるって」 楓子は不思議そうにその長い髪を一度かき上げる。 「――確かに。どう見ても」 「だってあなたがオーダー客1号で。しかもそういったバッグへのこだわりが私と同じなところが、とてもそそるんです」 実香が帆布バッグ作家としてMeeMaのサイトに作品を展示し始めたのが1か月前。MeeMaというのは、ハンドメイド作品を売りたい人と買いたい人をつなぐインターネットのマーケットである。 それを閲覧して初めて連絡してきた客が楓子だった。「オーダーメイドはできるか」と聞かれ、メールでやりとりしていたのだが、「まどろっこしい!」と一言放って飛んできた。どうも自身で動かずにはいられないタイプらしかった。 「これがほぼ理想のタイプだったの」
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