ハンドメイド作家とただの客

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「その数か月の間に事件は起きている。市谷実香さん、あなたどう思います?」 秋葉にそう尋ねられても、どうもこうも。 音沙汰なしなのだ。メールしても返事もない。広報代わりにSNSをフル活用、定期的に更新しているが、以前は即座に「いいね」をつけてきた楓子なのに何もない。 そりゃあよく見知っている間柄ではない。交わした会話は、そのバッグの製作についての打ち合わせだけだ。でも、フットワークが軽く、礼に欠けない印象を持ったので、全く何もないというのはちょっと不可解だった。 その楓子用オリジナルバッグを、MeeMaで見本として掲載した。それが次の客やその次の客を呼び、楓子は実香にとって幸運の女神といってもよかった。 それで、他商品の郵送のついでに、楓子の住所を訪ねることにした。そうして秋葉とこんな愉快でも何でもない話をすることになったのだ。 楓子の上司。部下。元カレの浮気相手。敵対相手を次々ナイフで切りつけた……? バッグの傘用のポケットに妙にこだわっていた楓子。あれは、傘じゃなくナイフを持ち歩きたいがための? 「濡れないこだわり」は、血が滴るナイフを納めるための隠れ蓑だった? 考えがそう行きついたら、ふつふつと怒りが湧いてきた。実香が共感した「バッグ愛」の裏にはそんな思惑があったのかと、裏切られた思いだった。 「怒ってるんですか?」 秋葉が言った。実香にも負けない無表情さで。 フン。嬉しくてもこんな顔だ。でも、今は正真正銘。 「怒ってますよ。当然」 私の作品を。私の渾身の作を。私の、大事な信念を。 その憤りで頭がいっぱいになり、それ以上何も考えられず帰途についた。
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