ハンドメイド作家とただの客

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作業用にしている自宅のフローリングの部屋を片付けながら始終気にしていた。デザイン用のスケッチブック。 めくってみなくても、楓子に作ったバッグの、あれこれ試行錯誤したポケットたちを覚えている。外側はいくつもの写真を刷り込んだ柄のパッチワークのかぶせ布に隠したキーや定期入れや。内側は財布やバッテリーや充電器や……。 「あれ?」 めくってみなくても覚えているけど、もう一度めくってみる。そうして、楓子が荷物を全部移し終えて肩掛けピースした写真など、記念に撮った何枚かを確認してみる。 「……あれ?」 さっきは頭に血が上って何も考えられなかったけど。 変、かもしれない。 ――素敵素敵。理想のバッグよ。実香さん、あなた天才ね! お世辞でも浮かれた妄言でも嬉しかった。いや、あれは本音にしか聞こえなかった。実香と違って楓子はストレートに感情が出るタイプだと思う。その印象が捨てられない。 実香はもらった秋葉の名刺を引っ張り出した。
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