ハンドメイド作家とただの客

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「そんなもんですか、女の人って」 秋葉が肩をすくめて言った。 「いくら平等の時代といっても、男にはわからん感性かもしれんですな」 バタバタッと事件が収束した。きっかけは、あのバッグだった。 実香は、もう一度秋葉にバッグの写真を見せてもらい、一つ一つ確認した。そして変だと確信した。 「あのバッグ、どのポケットに何を入れるかを決めて作ったんです。そこにこだわったのは楓子さんですよ。でも写真を見ると全然でたらめに入っている。キーホルダー用のところに消毒液とか、定期用のポケットにバッテリーとか。楓子さんじゃない誰かが中身を入れたんじゃないでしょうか?」 実香は秋葉にそう言った。 ズボンのポケットに小銭をじゃらつかせている秋葉には到底見当がつかなかったらしい。 そして捜査の視点が変わった。 楓子の職場にはロッカー室があって、出勤したらそこに私物を入れるという。女性は職場用の透明バッグにスマホや財布などの貴重品を移し、帰りまでそれを持ち歩く習慣だった。 その間に楓子が拉致されたとしたら。ロッカーを開けることができる人物が、透明バッグから貴重品を帆布バッグに移して、略奪女を刺した現場に置いたとしたら。つまり、楓子がそこにいたと見せかけ、罪を着せるために。 「ありがたい助言でした」 秋葉は全く表情を変えずに言った。嫌味なのか感心しているのかよくわからない。……でも、実香と共通していると言えば言えなくもなく、少し安心してしまう。 そして、無能じゃない。
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