ハンドメイド作家とただの客

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楓子の職場に入る掃除のバイト。その飯田という大学生がその通りに起こしたことだった。 ロッカー室にも出入りできるわけで、そもそもそこの古びたロッカーなぞ、誰だって鍵なしで開けることは可能だった。 一見明るくて気さくそうな飯田に、楓子は世間話からだんだんとセクハラやパワハラなんかの愚痴を漏らしたりするようになったらしく。 「それで一方的に楓子さんに惚れていた飯田は、彼女の敵を次々と刺して排除」 しかし楓子が喜ぶはずもない。飯田にそれを聞いて驚き咎め、自首を勧めた。飯田は「裏切られた」と思い、こんな行動に出た――。 「このところ飯田は無断欠勤しているというのでアパートに踏み込んだんです」 飯田はいた。拉致された楓子もいた。ぎゃあぎゃあ怒鳴り続けている楓子に、飯田は半泣きだったらしいが。 「私……役に立ちました?」 「警察もバカじゃない。飯田をマークはしてましたからね」 実香が言ったのは犯人のことじゃない。楓子のこと。 「彼女は?」 「無事に元気です。……お友だちなら××病院へお見舞いを許可します」 友だちじゃない。 「会いたがってますよ」 また、仏頂面で秋葉が言った。 ーー何でよ。何で私なんかに。会ってからまだ全然日の浅い、商品を注文しただけの、ただのハンドメイド作家に。 そんなんだから、変な奴に「知り合い以上」だと勘違いさせるんじゃないの。 友だちじゃあない。 けど、実香も楓子に会いたいと思った。
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