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寿、情報網。
黒木係長が建の人事異動を「自分が支店長に推薦した」と認めた。
寿の情報網に引っ掛かった噂は事実だった。異動が決まった時「俺、黒木係長と接点なんて無いんだよなぁ、何でだろう」と建も不思議がっていた。
ベッドに転がり天井を見ているとLINEの通知が鳴った。
「建!?」
慌てて起き上がり携帯電話の画面を開くと、そこには目出度そうな(寿)の文字が白い丸に赤字でバーーーーーーンと表示されていた。
(寿かぁ、なんだかなぁ、もう)
どうせ昨夜のコンパの愚痴だろうとメッセージを開くと、そこに表示されていた二文字に指先が凍りつき、脈打つのが分かった。
浮気
寿の情報網によれば、富山支店では奈良建と佐川さなという年上の女性社員が付き合っているのではないか、という噂が広まっているらしい。社内恋愛などざらにあるが、建が金沢支店の恋人を携帯電話の待受画面にしていた事もあり、浮気だの二股交際だのと囁かれているというのだ。今はもうその待受画面は別の画像に変わっているとも、寿からのラインメッセージには書かれていた。
既読にしたからには返信しなければ。
寿には情報提供感謝のメッセージと、おやすみのスタンプをひとつ送信した。
既読
「明日また話そう」そしておやすみのスタンプ。
ナイトキャップを被り、枕を抱えたオタマジャクシが画面でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。思わず吹き出す。
「そうかぁ、やっぱりかぁ」
そう呟きながら、頬に温かいものが流れた。
富山に会いに行くのが億劫だ、自分の気持ちが分からないと嘯きながら、それは自分が傷付かない為への予防線だったのかも知れない。
「連休から返事が無かったのは、その人と浮気してたからかぁ」
ベッドに横になると涙が伝い耳たぶで溢れた。
「あ〜あ、明日、寿とケンタッキー行こうかな」
富山に行こう。
有給休暇を取って建に内緒で富山に行こう。瑠璃はJRお出かけネットの画面を開き、北陸新幹線の往復切符を選びクレジットカードの番号を打ち込んだ。
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