お金を送らないとマイケルがーーー!

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お金を送らないとマイケルがーーー!

※物語の都合上、時代設定は近代〜現代にしています(一部異なる部分もあります)。また、魔法も使います。一般的な異世界恋愛と若干設定が異なりますので、ご了承下さい。 「いやー! 離してーー!」  私が侍女のミシェルと通りを歩いていたら女性の叫び声が聞こえた。  事件だろうか? 私は足早に叫び声のする方へ走った。 「マイケルがーーー! お金を送らないとマイケルがーーー!」  警察官に腕をつかまれた中年女性が泣き叫んでいる。  警察官は丁重に扱っているから、中年女性は犯人ではない。どうやら女性が事件に巻き込まれたようだ。  警察官は困った顔で「奥様、落ち着いてください」と話しかけている。一方の中年女性は「マイケルーー!」と叫び続けている。  見て見ぬふりもできないので、私は騒ぎから少し離れた場所にいる1人の警察官に話しかけた。 「あのー、どうかしましたか?」 「あっ、マーガレット様。いえ、マーガレット室長!」  警察官は畏まって私に敬礼した。  先週、ヘイズ王に頼まれてヘイズ王立警察の特別捜査室の室長に就任した私。  大々的に公表していないはずなのだが、既にこの警察官にまで知られているらしい。  ロベールを子爵にするために仕方がなかったとはいえ、街中で警察官に敬礼されるのはちょっと恥ずかしい。  私に追いついたミシェルも「室長!」と敬礼しているのだが、こっちは完全にバカにしている。その証拠に……顔が半笑いだ。 「ミシェル、そんなにおかしい?」 「……いえ、ぜんぜん……っぷ」  まあいい。今は何の事件かを警察官に確認するのが先だ。 「その女性はどうしたのですか? 何か犯罪に巻き込まれたのですか?」 「それが……このご婦人が銀行で送金しようとしていたのですが、どうやら詐欺に遭われたみたいでして……」 「詐欺?」 「はい。ご婦人は銀行で外国送金しようとしていました。その送金額が大きかったので銀行員がご婦人に確認したのです。そうしたら、外国のある会社の口座に送金しようとされていました」 「金額が大きいっていくらなの?」  警察官は私に送金額を伝えた。  たしかに……家が買えるくらいの金額だ。女性の身なりは良いから、貴族婦人なのだろう。 「その会社が女性を騙して送金させようとしているの?」 「いえ、そこまでは分かりません。ただ、ご婦人は『マイケルを助けるためには、この口座に送金しないといけない』の一点張りでして」 「さっきから女性が『マイケル』と叫んでいたわね。その女性の息子さんかしら?」 「いえ、会ったこともない人のようです」 「会ったこともない? あんな金額を送金するのに?」 「ええ、だから詐欺に遭われたのではないかと……ご婦人にお話を伺おうとしたら取り乱されて……」  ――事件のにおいが……  私の特別捜査室室長としての直感がそう言っている。先週からだけど……  それに、この事件を解決したらロベールを子爵にできるかもしれない。 「女性同士の方が話しやすいかもしれませんから、私が事情を聞きましょうか?」と私は警察官に尋ねた。 「そうしていただけると助かります」  私は女性の方へ歩いていって、「ご婦人、どうかされましたか?」と声を掛けた。  私を見た女性は驚いた顔をしている。 「ひょっとして、マーガレット様?」 「そうです。マーガレットです。初めてお会いすると思いますのに、よくご存じですね」 「もちろんです。先日の祝賀会でお見掛けしました」 「声をかけていただければよかったのに」 「滅相もありません。私なんて子爵夫人ですから」 「そんなことお気になさらずに。ところで、お名前を伺ってもよろしいですか?」 「シェリーです。シェリー・ジョンソンです」  警察官から聞いた送金額は高額だったが、子爵夫人であれば用意できなくもない。  私はシェリーから送金の理由を確認することにした。 「私はヘイズ王立警察の特別捜査室を任されておりまして、あなたが銀行で取り乱されていた理由を聞かせてもらえませんか?」 「はい……」 「ここではなんですから、場所を変えましょう」  シェリーが理由を話しにくいことかもしれないから、私は場所を変えることにした。 「フィリップ、馬車を!」  私がいうと、音もなく男が前に跪いた。 「きゃっ!」  驚いて後ろに倒れそうになったシェリーを抱きかかえるフィリップ。 「ご婦人、驚かせてしまい……失礼いたしました」  笑顔でシェリーに微笑むフィリップ。  いつも無表情なフィリップが精一杯の笑顔をシェリーに向けている。  一方のシェリーは真っすぐにフィリップを見つめる。 「フィリップが笑顔……っぷ」とミシェルがからかうと、シェリーは恥ずかしそうにフィリップから離れた。離れた後も、シェリーはフィリップをチラチラ見ている。  ――人は一瞬で恋に落ちるのね……  中年のラブロマンスを続けられても困るから、私はフィリップに指示をする。 「馬車を用意して」 「はっ!」  フィリップは音もなくどこかへ消えた。  しばらくすると、フィリップが馬車に乗ってやってきた。 「お嬢様、どちらへ?」 「とりあえず、うちへ行ってくれるかな」 「畏まりました」  馬車が走り出した。  馬車を運転するフィリップをチラチラ見るシェリー。  そんなシェリーを横目に、今にも笑い出しそうなミシェル。  つられて私も笑いそうになるのを我慢しながら……馬車は屋敷に向かうのであった。
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