あの世ガール

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この季節になると……そう、特に雪を見ると、私は必ず思い出す事がある。 私――平山(ひらやま) 理子(りこ)が暮らす埼玉県の松伏町(まつぶしまち)では、13年前まで【夢の中で理想の彼女と付き合える『あの世ガール』】というおまじないが小・中学生の男子を中心に大流行していた。 それは、行うと必ず夢の中で自分の理想の彼女に出逢え、キスやその他いかがわしい事まで出来ると言われているおまじないで、彼女がいなくて寂しい思いをしていた思春期の男子達には絶大な人気があったのだ。 方法は至って簡単。 先ず、町内にある第二中学校の職員室前の廊下に行き、そこにあるガラスの飾り棚の中から『あの世ガール』ことジェニーさんの写真を見つけ、それを写真に撮って来る。 次に、その写真をプリントすると、裏の白紙部分に、自分の血で大きく一面にハートマークを書くのだ。 そうして、寝る直前に、その写真を両手の間に挟んで、呪文を唱える。  男子曰く、その呪文とは――、 「ジェニーさん、ジェニーさん。僕こそが貴女の理想のボーイフレンドです。血のハートを目印に、夢の中まで逢いに来て下さい」 と、いうものらしい。 その後、写真を枕の下に挟んで寝ると――ほぼ確実に、夢の中で自分の理想を体現したかの様な素晴らしい女性に出逢えるのだそうだ。 次々に成功者が現れていたこともあり、彼女に恵まれなかった男子達は、皆こぞってこのおまじないを実践した。 おまじないを実践した男子曰く、 「本当に夢の中で理想の女の子が俺を待っていた」 のだ、そうだ。 だが、実はこのおまじないには1つ問題があった。 それは、どんなに長く続けても、必ず7日以内におまじないを止めなければいけないらしい。 さもないと、寂しがったジェニーさんが写真から抜け出して来て、止めなかった本人をあの世に連れて行ってしまうのである。 というのも、そもそも……実はこのおまじないに出て来るジェニーさんとは、れっきとした実在した人物のことなのだ。 彼女は、20年以上前にこの第二中学校に交換留学で来ていたイギリス人の女生徒で、同じクラスの日本人の男子生徒と激しい恋に落ちた末、帰国後――彼に逢えない悲しみから、心を病んで亡くなってしまっていた。 なので、7日以内に止めなければ……その男子は、今でも彼氏を求めているジェニーさんの霊に捕まり、この世に帰れなくなるという訳だ。 でも、果たしてそれが本当なのか――。 真偽の程を語れる存在は、今はもういない。  何故なら、13年前――最後にそれを試した男子生徒数名が、学校のスキー教室で訪れた真冬の雪山で、雪崩に巻き込まれて命を落としてしまっているからだ。 以降、私の町の小・中学校では、あの世ガールのおまじないを厳しく禁止している。 ちなみに、当のジェニーさんの写真だが、何故か未だに廊下に飾られたままでいるそうだ。 処分をしようとすると、此方も不可解な事故が頻発するらしい。 ちなみに、その事故を目撃した目撃者は、皆、同じ事を言うそうだ。 その場に確かに、【外人の女の子がいる様に見えた】と。
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