14人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
1
キャンプ帰りに立ち寄った山すその神社は、巨大なのぼり旗が立ち並んでいた。境内は屋台で賑わい、何かの祭事なんだろうと一目でわかる。
「時期的に、桜祭りってやつか?」
第一の鳥居の両側で咲き誇っていた桜を眺めながら言うと、前を歩いていた父さんが首を横に振る。
「『雛草まつり』だな。ここ、雛結神社って名前だろ?春には桜よりも雛草を見にくる参拝者が多いんだ」
父さんによると、雛草とは春に本殿周りを彩る青や水色の小花らしい。どんなものかと参拝を済ませてから本殿のほうを覗いてみると、確かに地面が大空になったように満開だった。
「すごい……キレイだな」
「やっぱりここはいいなぁ。あ、父さんちょっと酒もらってくる」
「車なのに大丈夫なのか?俺が運転する?」
「甘酒だから心配するな。大学生は学業のお守りでも授かってこい」
嬉しそうに手を振った父さんは、「甘酒無料」の看板が出ているテントへ走って行ってしまう。
俺は満開の雛草をしばらく眺め、それから近くの授与所を覗いてみた。定番のお守りや木札に混じって、ふと先ほどの雛草と同じ水色の鈴が目につく。
「空鈴」と書かれたそれは、見ている側から若い女性グループが揃って巫女から受け取っていた。
最初のコメントを投稿しよう!