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「私も来年はそうなるんだけどね。でも少しだけ……寂しいかなぁ」
同じ気持ちでいてくれるのか、詩織の表情が曇る。そんな顔を俺のせいでさせていると思うと胸が痛くなる。
「あのさ。渡したいものがあって」
ダウンのポケットから、今こそあの空鈴を取り出そうと手を動かす。が、同時に詩織が両手を叩いた。
「ああ!そういえばね、聞いてよ彰くん!この前、同じ学部の男の子に映画に誘われて」
「は?」
聞き捨てならないことを聞いた。眉間に盛大に皺がよる。
「もちろん断ったよ?私には大好きな彼氏がいるから行かないって。それにアウトドアサークルで登山とかキャンプとかしてとっても忙しいんだって」
胸を張って得意げに詩織が言う。そのしぐさがまた可愛らしい。でも、俺と会っていない時間にそんな誘いがあるのかと思ったらものすごく落ち着かない。
「そしたらその人、なんて言ったと思う?」
「さあ……」
「アウトドアなんてダサいだの、外で寝るとか防犯対策がなってないだのってネチネチ言われてさ」
「......失礼なやつだな」
「さらに説教されそうになったから、あなたと映画なんか行きたくない!って、あえて大声で言って逃げてやったの。講義室のみんながこっち見てた」
口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。こういうところが詩織の面白いところだ。こんな魅力的な子は……きっと他にはいない。
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