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「あれ?彰くん?大丈夫?」
「大丈夫だっ!」
自分でも引くくらいの大声が出てしまった。詩織が目を丸くしているが、声が勝手にヒートアップしていく。
「それより!詩織!そんなやつに絶対なびくなよ!ずっとこの先も俺とぉ……」
一緒にいてくれ!
そう叫びつつ、ポケットから俺の恋心の分身といってもいいあの空鈴を取り出した。
......つもりだった。
「?」
掴んだ感触が柔らかく。詩織の目の前に突き出した手のひらには、大きめの埃の塊がコロりとのっている。
「えっと……ゴミ、かな?」
最悪だ。
ダウンのポケットの隅で固まってた埃を出してしまったのだ。じゃあ空鈴は?
「あ」
慌ててポケットを確認する。底には大きな穴が開いていた。
「ありゃ。穴だね。なにか入れてたの?そしたらどこかで落としちゃったね」
絶句する俺。
本当に最悪だ。
空鈴をなくしたばかりか、埃をプレゼントするなんて。その同級生の虚言野郎以下じゃないか。
「……ごめんっ!こんなつもりじゃ」
詩織はアハハと笑ってからテント横の薪束を指さす。
「そろそろ焚火しようか。こんなに立派な火種もあることだし」
埃の塊を見て言ってくれた詩織に、俺は涙目になる。
優しい発想の転換が、ただただありがたい。
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