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キャンプ帰りに立ち寄った山すその神社は、巨大なのぼり旗が立ち並んでいた。境内は屋台で賑わい、何かの祭事なんだろうと一目でわかる。 「時期的に、桜祭りってやつか?」 第一の鳥居の両側で咲き誇っていた桜を眺めながら言うと、前を歩いていた父さんが首を横に振る。 「『雛草(ひなそう)まつり』だな。ここ、雛結神社(ひなゆいじんじゃ)って名前だろ?春には桜よりも雛草(ひなそう)を見にくる参拝者が多いんだ」 父さんによると、雛草(ひなそう)とは春に本殿周りを彩る青や水色の小花らしい。どんなものかと参拝を済ませてから本殿のほうを覗いてみると、確かに地面が大空になったように満開だった。 「すごい……キレイだな」 「やっぱりここはいいなぁ。あ、父さんちょっと酒もらってくる」 「車なのに大丈夫なのか?俺が運転する?」 「甘酒だから心配するな。大学生は学業のお守りでも授かってこい」 嬉しそうに手を振った父さんは、「甘酒無料」の看板が出ているテントへ走って行ってしまう。 俺は満開の雛草(ひなそう)をしばらく眺め、それから近くの授与所を覗いてみた。定番のお守りや木札に混じって、ふと先ほどの雛草(ひなそう)と同じ水色の鈴が目につく。 「空鈴(そらすず)」と書かれたそれは、見ている側から若い女性グループが揃って巫女から受け取っていた。
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