これ、実話だっていったらどうします?

1/1
前へ
/1ページ
次へ
私は歯並びが悪い。 二重歯列といって、歯が重なっている。 子どもの頃からずっとそうだった。 子どもならではの 「何でお前の歯だけおかしーの?」という 無邪気な質問に、傷つきながらも耐えてきた。 歯並びが悪いことは、 見た目が悪いことに繋がる。 中には歯並びが悪い人は恋人NG何て言う人間もいる位だ。 「じゃあ矯正したらいいじゃん」 相談すると真っ先にそう言われる。 失敗した話やイタイという話も聞くし、 百パーセント成功するとは限らない。 お金だって場合によっては百万以上かかるのに。 歯並びの良いお前は0円なのに。 歯並びが悪い。 たったこれだけ。 されどこんなに。 あまりに理不尽だ。 そんな私は今30歳。 ポケットの中には2本の歯。 口の中は血の味でいっぱいだ。 さっきペンチで引っこ抜いた。 1本にとどまらず、2本ども。 ぐいっと。 「ふふっ」 その歯を見ながら、 彼氏と浮気相手のクソ女の呆然とした顔を思い出して笑った。 家に帰ると知らない女の靴。 彼氏が浮気をしていた。 混乱する頭で部屋の前に行くと、こんな言葉が聞こえてきた。 「あいつ、キスするときに歯ジャマなんだよな。」 「歯並び悪いの嫌だよね~」 その瞬間、よくわからないけど全てが爆発した。 彼氏が好きなプラモデル造りで使っているペンチが あったのでそれをもって勢いよくドアを開ける。 驚く2人の目線の先には、私とペンチ。 そのペンチで何かされると思ったのだろう。 酷く怯えている。 私は2人をただ真っすぐ見つめがらペンチを口の中に突っ込んで、 不格好な歯を思いっきりぐいっと真横に曲げた。 怒りで痛さも力強さもどれもがおかしくなっていた。 恐らく変に折れてしまったが、 そんなことはどうだっていい。 悲鳴1つあげずにこの様子を見ている2人に、 口の中に溜まった血を吐き捨てる。 「お幸せに」とか「ふざけんな」とか、 そんなセリフを発することなく ただただ無言で立ち去った。 ポケットの中にある歯が2つ。口の中は未だに鉄分くさい。 だけどこれで私はもう、 何にもコンプレックスや劣等感を抱くことなく暮らせる。 そう思うと、自然と笑みが零れてきた。 「ははっ。」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加