これ、実話だっていったらどうします?

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私は歯並びが悪い。 二重歯列といって、歯が重なっている。 子どもの頃からずっとそうだった。 子どもならではの 「何でお前の歯だけおかしーの?」という 無邪気な質問に、傷つきながらも耐えてきた。 歯並びが悪いことは、 見た目が悪いことに繋がる。 中には歯並びが悪い人は恋人NG何て言う人間もいる位だ。 「じゃあ矯正したらいいじゃん」 相談すると真っ先にそう言われる。 失敗した話やイタイという話も聞くし、 百パーセント成功するとは限らない。 お金だって場合によっては百万以上かかるのに。 歯並びの良いお前は0円なのに。 歯並びが悪い。 たったこれだけ。 されどこんなに。 あまりに理不尽だ。 そんな私は今30歳。 ポケットの中には2本の歯。 口の中は血の味でいっぱいだ。 さっきペンチで引っこ抜いた。 1本にとどまらず、2本ども。 ぐいっと。 「ふふっ」 その歯を見ながら、 彼氏と浮気相手のクソ女の呆然とした顔を思い出して笑った。 家に帰ると知らない女の靴。 彼氏が浮気をしていた。 混乱する頭で部屋の前に行くと、こんな言葉が聞こえてきた。 「あいつ、キスするときに歯ジャマなんだよな。」 「歯並び悪いの嫌だよね~」 その瞬間、よくわからないけど全てが爆発した。 彼氏が好きなプラモデル造りで使っているペンチが あったのでそれをもって勢いよくドアを開ける。 驚く2人の目線の先には、私とペンチ。 そのペンチで何かされると思ったのだろう。 酷く怯えている。 私は2人をただ真っすぐ見つめがらペンチを口の中に突っ込んで、 不格好な歯を思いっきりぐいっと真横に曲げた。 怒りで痛さも力強さもどれもがおかしくなっていた。 恐らく変に折れてしまったが、 そんなことはどうだっていい。 悲鳴1つあげずにこの様子を見ている2人に、 口の中に溜まった血を吐き捨てる。 「お幸せに」とか「ふざけんな」とか、 そんなセリフを発することなく ただただ無言で立ち去った。 ポケットの中にある歯が2つ。口の中は未だに鉄分くさい。 だけどこれで私はもう、 何にもコンプレックスや劣等感を抱くことなく暮らせる。 そう思うと、自然と笑みが零れてきた。 「ははっ。」
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