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「あんたはどうして俺の心を掻き乱す」
「わ、私が…ですか…?」
「他の人にも笑顔を向けているのを見ると腹立たしい。その笑顔を俺だけの物にしたいと…思ってしまう」
ベッドに腰掛けながら言われ、私はその言葉に困惑してしまう。初めて会った人では無さそうだが…何も覚えていない…どういう人で私は彼と何があったのだろう。
「すみません…私は何も覚えていなくて」
「知ってる。初めて会ったその日から…知っている」
「そうですか…では、私は人を好きになれないのも知っていますか?」
その言葉に無表情だった彼は知っていたと言わんばかりに伏し目がちになる。私は好きと言う感情が芽生える前にリセットされてしまう…だからこそ私は恋人など出来ないし作ってはいけないのだ。
「それでも俺は…いや。すまないこんな話をされても困るな」
私の口元を見つめていたが、また片手で顔を覆いため息をついて立ち上がり私の隣を通り過ぎ扉のノブに手をかける。その後ろ姿がどこか寂しそうで、私はその背に手を伸ばしかけたがその手を引いた。
また明日にはこの寂しげな背中も私は忘れてしまうのだ…今手を伸ばしてその背に触れたとしてもその後はどうにも出来ない。外まで案内され私はディルクに一礼して家へと帰った。
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