今日しか無い毎日の中で

16/43
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
「そのディルクという方は」 「本日は遠征に向かわれております。ご無事で帰られると良いのですが」 「そう…ですか…」 遠征という事はその人は騎士か何かなのだろうか?いや領主が騎士だなんて聞いた事が無い。取引か何かの事を遠征と呼んだりしているのだろうか… 昼食後にバラの美しく咲き誇る中庭で紅茶を飲んでいれば遠くから蹄の音が近づいてきて、蹄の音が止まってしばらくしてから騎士の男性が歩み寄ってきている。 私の目の前に立ち差し出されたのは美しいピンク色の小さな花が何本もあり、私はその花と騎士を見比べてその花を受け取ってみた。 「ただいまソレイユ」 「あ、おかえりなさい…ディルク様…?」 「ディルクで構わない」 ディルクは目の前の椅子に座り、花を置いて紅茶を飲む私を真っ直ぐ見つめてくる。どうして私はこんなに見つめられているのだろう…この人は私の何なのだろう… 「不自由は無いか」 「あ、はいありがとうございます」 私の返事にどこか寂しそうに見えたが、椅子を立ち私の頭をポンと撫でてどこかへと歩いていってしまう。どうしてあんなに寂しそうな顔をするのだろう…私はあんなに悲しい顔をさせてしまうような存在なのだろうか…記憶を辿ろうとしたが、何も思い出せない。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!