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騎士は焚き木を集めてきて火打石で火をつけてくれて、その温かさにほっとしてしまう。パチパチと火の爆ぜる音が心地良く、揺らめく火を見つめていた。
「さっきの…どういう意味だ」
「さっきの…?」
「明日には忘れる…と」
騎士は馬から荷物を下ろし、中に入っていたパンを分け与えてくれてそれを受け取りそのパンを見つめる。
「私は昨日の事が思い出せないんです。昨日の記憶どころか私の記憶は15の誕生日から止まってるんです」
私はゆっくり話し始める。貴族の息子である私は誕生日の日の夜皆でケーキを食べて寝て…起きたら今日に至り、記憶が無くなる事が最初分からなかったか今は記憶が無くなる事を認識出来ている。
だからこそ嫌な事も平気でやれるし、体に痛みや跡さえ残らなければ何をされても許そうと思う。怒ったり悲しんだりしてもどうせ忘れてしまうから。
「俺の名はディルク・アーガイル」
「今の話聞いてました?眠って目を覚ましたら私は」
「構わない。俺はあんたを覚えた。だから名乗った」
パンを食べながら言われ私もパンをちぎって口へ運んでいたが、噛みちぎっているのを見て私もやってみようかと思いそのまま食べてみたが、やはり私はちぎって食べた方が良いらしい。
他にも木の実を採ってきたりしてくれて、お腹も満たされ眠くなってきてしまう。起きたらまだ側に居てくれるだろうか…いや、居てもらっても私は絶対覚えていないだろう。
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