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僕はおそるおそるじいちゃんの日記をめくった。
八月三日
ルリ子に頼まれ、宮島の宿を予約 広島と呉への慰問なり。慰問袋を縫うルリ子を撮影。
三日は変わっている。四日は変わりない。変わりなく出発したということか。
八月七日のところには、新聞の切り抜きが貼りつけてあるだけで、新しい言葉は何も書かれていなかった。
俺はため息をついた。羽衣ルリ子は慰問にいく途中でおそらく原子爆弾で命を落とし、じいちゃんは戦後しばらくしてばあちゃんと出会って結婚して、親父と叔父叔母が生まれ、親父はおふくろと出会って僕と妹が生まれる。
歴史はそう簡単には変わらない。
「だよなあ」
俺は脱力しながらも、歯を磨き顔を洗い、髪を梳かして店をあけた。
満潮の時刻らしく、ぷん、と潮の香りがした。
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