3人が本棚に入れています
本棚に追加
「学校、行きたくないな」
部屋の壁に吊られてる制服を見ながら、どうしようもない不満を口に出す。
熱もない、どこも痛くない、どこをどう見たって健康体の私が、仮病なんて使えそうにない。
今日は、寒気なんて感じませんように。
体が震える瞬間なんて、来ませんように。
毎朝毎朝繰り返すたった一つの願い。
誰もがみんな無事で、平和な世界でありますように。せめて、私の周りだけでも。
世界平和だなんて、そんなご立派な考えなんかじゃない。これは私のため。自分勝手な高校生の、役にも立たない祈り。
校門の前で、さっきの願いを強く繰り返した。
家から出て、電車に乗って、平和そのものだった道のり。ここでも、その時間が続けばいい。
「ねぇ、今日は死神来てるよ」
「本当だ。今日も、やるのかな」
私を追い抜きざまに、聞えよがしに繰り広げられる会話。
内緒話は内緒話らしく、聞こえないようにやりなよね。
そもそも、私だってやりたくてやってるわけじゃない。あんた達が勝手に危ない目に合うんじゃない。
本物の死神が来てるんだよ?
放っておいたら、連れて行かれちゃうよ?
見て見ぬふり、できないじゃない。
だって、私にはわかっちゃうんだから。
なんの前触れもなく、私の背筋を走る悪寒。寒い冬だけじゃない、真夏にも感じる震えるほどの寒気。それを感じた直後、自分の周りで事故が起きるってことに、気がついたのはいつだったっけ。
誰にも言えない。言ったところで信じてもらえるはずもない出来事。
その寒気を頼りに、人助けばかりしていたら、ついたあだ名は『死神』
そりゃそうか。私の周りで事故起きすぎだもん。その度に助けてたら、ヒーローを自作自演してるって言われ出した。
でもね、本物の死神はもっとかっこいいよ。
テレビに出てくるミュージシャンみたい。
なんて、私の力以上に信じてもらえないか。
私が人助けしちゃうから、やることがなくなった本物が、その辺を浮遊してることにも気づいた。
他の人には見えてない。大きな鎌を振り回して、黒い翼で空中を飛ぶ。
漫画の死神みたいに、とんでもない容姿じゃなくて良かった。あんなものが現実に見えてたら、恐怖で腰を抜かしてる。
「今日は邪魔すんなよな」
こんな風に突然声をかけられて。いくらイケメンっていったって、大鎌に黒い翼。人間が空を飛んでたら、心臓がひっくり返るぐらいに驚いた。
「って、何でこんなところにいるの?」
一日、何とか平和に終わった学校生活。
学校生活ってさ、思った以上に危険が多い。
階段から落ちそうになって、野球ボールが頭に当たって。調理実習なんて、やめておきなよ。
寒気を感じなかったことに感謝して、私だけがビクビクしてることに、ほんの少し苛ついて。どうにもならない悪態をつきながら家に帰る真っ最中。
寒気を感じる前に現れた本物。
いつ見ても、その姿だけはかっこいい。
「今日は、割と暇でさ。遊びに来た」
遊びに? 私のところへ?
いくらひとりぼっちでも、死神に遊んでもらわなきゃいけないほどじゃないよ。
最初のコメントを投稿しよう!