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第1話 栗色の髪
大学生になって初めての講義。
教室のドアの前で立ち止まってしまった。
「もしかして緊張してる?」
「文ちゃん緊張してないの?」
「しないよぉ」
入学式で仲良くなった、同じ数学科の絹迫文子、文ちゃんに、緊張していることを笑われた。
ドアを開けると、教室の前の方の席はすでに埋まっている。
席は自由なんだから、後ろの方から席が埋まるものだと思っていた。だから、前の方から席が埋まっているということに驚いた。きっとこの講義は人気なんだ。
2つ並んで空いている席を見つけて文ちゃんと座った。
ノートとペンケースを机に出して、ノートPCを立ち上げていると、突然後ろから髪の毛を引っ張られた。
「やっぱこの色地毛なんだ」
後ろを振り向くと、派手目の男2人と、その隣には煌びやかな女の人が座っていて、その中でも一番派手な、まるでテレビの中から抜け出してきたような男がわたしの栗色の髪の毛を掴んでいる。
何?
男はわたしの顔を少しの間じっと見てから、
「名前」
と、有無を言わさない口調で聞いてきた。
「こ、小暮アリス」
「ここぐれありす?」
「違います。小暮アリスです」
「小暮アリスね」
そう言って、ようやく掴んでいた髪の毛を離してくれた。
その時、前方のドアが開き、教授が助手と一緒に教室に入ってきた。
ざわついていた教室内が静かになる。
前を向くと、文ちゃんが小声で聞いてくれた。
「アリス、大丈夫?」
「うん……」
今の、何だったんだろう……
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