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第2話 一臣
初日の講義はこれからのスケジュールを助手が説明し、教授は簡単な挨拶だけして30分程度で終わってしまい、拍子抜けしてしまった。
あまりにも早く終わってしまったから、次の授業まで1時間は空きができたことになる。
後ろの人達がいなくなるのを待ってから、文ちゃんと教室を出て、時間を潰すために校内のカフェに向かった。
「さっきの人、高梨一臣って人だよ」
「文ちゃん知り合い?」
「名前知ってるだけ。高梨は小学校からずっとエスカレーターでここの学校で、親があの高梨ホールディングスの社長だから有名なんだよ。隣にいたのが、楠海斗。やっぱり小学校からここの学校だけど、父親が外交官だから海外と行ったり来たりだったって聞いたことがある。その横にいた羽鳥美羽も小学校から。3人で仲良いみたい」
「文ちゃんよく知ってるね」
「わたしも内部だから。高校からだけど。エスカレーターで大学まで上がってきたから、アリスのように受験組じゃない分、知ってるんだよ」
「そうなんだ」
同じ「内部」って言っても、文ちゃんとさっきの人とでは全然違う。
「今度から絶対離れた席に座る」
そう言った瞬間、目の前に高梨一臣本人がいて、思いっきり目があってしまった。
「誰と離れた席に座るの? 小暮アリス」
しかも話しかけられた。
「あ、えっと……」
言葉が出てこず、思わず目の前にいる本人を指差してしまった。
「おれ?」
「はい……」
「何それ……」
高梨一臣は、ムッとしたように言った。
わたしは、何も言わずに文ちゃんの手を掴んでその場を走って逃げた。
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