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第28話 恋愛偏差値
教室に入ると、アリスは見当たらず、アリスの友人絹迫文子が一人でいた。
彼女は確か鳳林高校出身だった。
「絹迫さん、アリスは?」
声をかけると、絹迫さんが意味深な笑みを浮かべながら言った。
「さっき、知らない男子に呼ばれて出て行ったけど。早く行った方がいいと思うよ。多分階段の踊り場辺りにいるはず」
「ありがとう」
どうして急がないといけないのかわからなかったけれど、とりあえず言われた通り、階段の踊り場に急いだ。
絹迫さんの推測通り、階段を半分ほど降りた踊り場にアリスと知らない男がいた。
「この前の授業で見かけた時からかわいいなぁ、って思ってたんだ」
見るからにチャラそうな男だった。
それでもアリスは黙って話を聞いているようだった。
「今誰か付き合ってるやついるの?」
「付き合ってる人ですか?」
「そ、彼氏いる?」
「彼氏は、いないです」
何でそうなる?
でもアリスのことだから、気をもたせるとかそういうつもりはないだろうから……
「あ、じゃあさぁ、おれと……」
男が最後まで言う前に、オレが声をかけた。
「アリス、こんなところにいたんだ」
明らかに男が不愉快そうな顔でこっちを見てきたけれど、そんなことは無視してそいつに言った。
「その子、オレのことが好きだから」
「え? 何それ?」
「そうだろ、アリス?」
今度はアリスに向かって言った。
「うん」
アリスの答えを聞いて、男はぶつぶつ言いながら、そのまま階段を降りて行った。
「彼氏いないとか言うから……」
「でも海斗には『付き合おう』って言われてない」
まじか……
「アリス、オレと付き合おう」
「え? はい」
「これでいい?」
アリスが嬉しそうに笑った。
「初めて『彼氏』ができた」
アリスの恋愛偏差値はマイナスだ。
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