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第32話 「友達」
個室に席を設けてもらい、改めて4人でテーブルを囲んだ。
「初めまして。アリスの兄の小暮ユウゴです。それで、3人はどう言う関係?」
「楠海斗と言います。同じ鳳林大の1年です」
「わたしも同じ鳳林大1年の羽鳥美羽です」
「で、海斗くんは僕がアリスの浮気相手だと思ったの?」
「ごめんなさい! わたしが勘違いしちゃって、海斗を呼び出したんです」
美羽が平謝りした。
オレが驚いているのに気がついて、アリスの兄さんが言った。
「態度でわかったんだよ。君がアリスの相手だったんだ」
「はい」
「フィンランド人の年上の彼女がいたっていう」
「あの、その話はちょっと……」
「初耳その話!」
食い付くな、美羽。
「わたしもその話初めて聞いた」
アリスまで……
「ごめん、ごめん。印象に残ってて」
アリスの兄さんが笑う。
アリスのお母さんが話したのか……
アリスが鳳林大に進んだのは、兄さんの母校だったからで、初めてひとりで暮らすのに全く知らないところよりはいいだろう、というのが理由だったと聞いた。
気がつくと、アリスと美羽は統計学について話し込んでいた。
これはちょっとついていけない。
2人の方をチラリと見てから、アリスの兄さんが言った。
「アリスは恋愛に関してはレベルがゼロだから、大変だろ?」
「楽しく振り回されてます」
「僕が高校を卒業する時、少し後輩を脅しすぎてしまったせいで、男子が寄り付かなかったみたいで。反省してるんだ」
……何をしたんだ?
「今日、アリスに久しぶりに会ったけど、君の話ばかりしてたよ。危うく間違えるところだった。君とも話せて良かった」
「何を間違えるとこだったんですか?」
「君、高梨くんと知り合い?」
さらりと話をかわされた。アリスとは全然違うタイプの人だ。
「友達です。そこにいる美羽と、小学校からの幼馴染になります。今日、一臣に会いに来てたんですよね?」
「彼は僕のことを何て言ってた?」
質問に質問で返される。
「父親の仕事関係の人だと」
「そのことに関しては嘘じゃない」
別のことでは嘘をついたという意味だろうか?
「彼は、友達なんだ……」
何か含みを感じる。
「お兄さん、アリスが免許持ってて運転上手いって本当ですか?」
美羽が話しかけてきた。
「上手いかどうかはわからないけど、普通車から軽トラまで運転できるよ」
「嘘じゃないでしょ!」
アリスが美羽と楽しそうに話している。
それを見ているとこっちも楽しくなる。
そんなオレを見て、アリスの兄さんが言った。
「せっかく育てたひな鳥を誰かにとられないように」
アリスの兄さんとは店の前で別れ、美羽とも駅で別れた。
オレとアリスは同じ方向だから同じ電車に乗った。
「アリスの兄さんって……」
「わたしとは全然違うでしょ? お兄ちゃんは、見かけはお父さんなのに、性格がお母さんで、いつも冷静で言うことが謎解きみたい」
確かにアリスのお母さんと似ている。全部は言わず、こちらに考えさせるような話し方だ。
「仕事で出て来たって言ってたけど何だったんだろう……うちってただの農家だけど、こっちに仕事なんかあるのかな」
そう言えば名刺を貰っていた。
ポケットの中に入れていた名刺を見ると、
「小暮ファーム株式会社 代表取締役 小暮ユウゴ」とあった。
アリスの兄さんが会社の代表なんだ。
「そう言えば、アリスあれからあのドラマ『君がいてくれたから』の話ずっとしてないけど、全部見た?」
ふと思い出して聞いた。
「まだ見てない。録画がずっとたまっちゃってる。だから最後は言わないでね」
アリスはそう言って微笑んだ。
アリス、あのドラマ『君がいてくれたから』はさ、主人公は好きな男と両想いだったのに、好きな男と、その友達で主人公のことを好きな男との間で……
アリス、それはドラマの中だけの話だよな?
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