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第34話 龍宮窟
旅行当日、アリスはレンタカーまで手配していた。
どっちが運転するのかでもめたけれど、初心者の運転で遠出は怖いと言い切られ、結局アリスが運転することになった。
本当に、運転は上手かった。
アリスの行きたかった龍宮窟は、神秘的な洞窟で、自然が作り出した美しい場所として有名なところだった。
遊歩道を歩く時も、高台が設置された天窓に向かう時も、アリスはずっとオレの手を離さない。
ビーチを見てアリスが残念そうに言った。
「せっかく海があるのに泳げないのは残念」
「お盆すぎてるから」
「そうだよね、お盆すぎてると、亡くなった人が足を引っ張るんだよね」
「違うよ、クラゲが出て刺されるからだよ」
「嘘?」
「本当。また、来年来よう。今度は海に入れる時に」
そう言うと、アリスはただ微笑んだ。
一日があっという間に過ぎて、予約していたホテルに向かうと、アリスが口を滑らせた。
「こんなとこだったんだ」
「アリスが予約したんだろ?」
そうと言うと、少し気まずそうに言った。
「今回の旅行のスポンサーは、お兄ちゃんなんだよね」
「アリスのお兄さん?」
「うん。2人で楽しんでおいでって。だから、旅行費用とか、海斗も気にしなくていいんだよ」
それは……どう考えたらいいんだろう……
部屋は、ダブルベッドだったので、ますますアリスの兄さんの真意がはかりかねて悩みが増した。
せめてツインベッドにして欲しかった。
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