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第35話 次の約束
お風呂から出たアリスの濡れた長い髪の毛を見て、
「乾かしてあげよっか」
と言うと、アリスは喜んだ。
ドライヤーで乾かしている間、アリスは無邪気に何か歌っていた。
2人で部屋に置いてあったジェンガをしたり、トランプをして遊んで、いよいよ最大の難関がやってきてしまった。
オレがベッドに仰向けになると、アリスが横にくっついてきた。
ひたすら難しい定理を唱えることにする。
フェルマーの最終定理。カタストロフィー理論。シュレーディンガー方程式……数学は得意じゃないからすぐに眠くなるはず。
「海斗……」
ついさっきまでふれていた、アリスの長い髪が、オレの頬にふれている。
アリスの方から……オレにキスをしてきた。
アリスがじっとオレの顔を見ているので、今度はオレがアリスにキスをした。
そのまま首元にまでキスをした時、アリスが緊張しているのがわかったので、そこで終わりにしてしまおうとしたのに、アリスがオレの背中に手を回してきた。
「海斗、好き。大好き」
それで、そっと、アリスにふれた。
目が覚めると、隣にいるはずのアリスがいない。
起き上がると、窓辺で朝陽を見ているアリスの姿があった。
「起こしてくれればいいのに」
アリスを後ろから抱きしめた。
「何でオレのシャツ着てんの?」
「一度やってみたかったの。この前ドラマで、彼女が大きめの彼氏のシャツを着てるの見たから」
相変わらずドラマ好きだ。しかも再放送の古いやつ。
「わたし、今日見た朝陽を絶対忘れない。でも海斗は忘れちゃっていいよ」
「何で? オレも覚えとくし」
「忘れちゃって」
何か、変だと思ったけれど、昨日の今日だからなのか、とも思ったので、それ以上何も言わなかった。
その日は少しだけ浜辺をぶらぶら歩いて、それから帰ることにした。
帰りは運転させてくれたけれど、アリスが横で怖がっているのがわかって複雑な気持ちになってしまう。そんな怖いか?
アリスのマンションの前まで送って、別れ際、
「次、どこ行こっか?」
と聞くと、
「夏休みは家に帰るから。GWも帰らなかったし。お母さんも日本にいるから久しぶりに家族で過ごそうと思ってる」
アリスが言った。
「そっか……いつ帰るの?」
「明日」
「え? あ、そうなんだ」
「海斗、ありがとう。とってもとっても楽しかった」
アリスが笑顔を見せた。
「うん? じゃあ、電話する」
「海斗、さよなら」
「うん、バイバイ」
そう言って別れた。
何か違和感……
振り返ると、アリスがまだそこにいてこっちを見ていたので手を振ったけれど、アリスはただこっちを見ているだけだった。
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