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第36話 違和感の正体
最初のうち、電話をしてあのお決まりのセリフ「おかけになった電話番号は電波が届かないか電源が入ってない……」を聞いても、また充電し忘れているんだろうとしか思っていなかった。
けれどもそれが数日続いた後、「おかけになった電話番号は現在使われておりません」に変わった時、ようやくずっと抱いていた違和感の正体に気がついた。
やっぱり、何か変だと思っていたのは間違いじゃなかった。
ただ理由がわからない。
最後に会った日も普通に別れ……
違う。
いつもと違っていた。
違和感がったのはそのせいだ。
アリスは、『海斗、さよなら』と言ったんだ。
思い出せばおかしなことばかりだった。
旅行中は、オレにずっとくっついていたし、あの夜、アリスは自分からキスをしてきた……
『わたし、今日見た朝陽を絶対忘れない。でも海斗は忘れちゃっていいよ』
あれには、意味があったんだ。
今頃になって気がつくなんて……
大学が始まったら学校で会えるだろう。
でもそれでは遅すぎる。
アリスの実家の住所を聞いておけば良かった。
そう考えた時、アリスの兄さんからもらった名刺を思い出した。会社の住所が書いてあるはずだ。家は農家だと言っていたから、だいたいこういう場合、会社は家か、その近くのはずだ。
名刺の住所をネットで検索すると、予想ははずれ、該当する住所を指し示すアイコンは都心部の全く違うと思われる場所にあった。
それでもう一つの方法、名刺にある番号に電話をすることにした。
アリスは、旅行は全て兄さんが手配してくれたと言っていた。
兄さんもこの件に絡んでいるのなら、果たして電話に出るだろうか?
そんなことを考えながらも番号をプッシュする。
数コール後、電話は繋がった。
「海斗くん?」
第一声は予想外な言葉だった。
「どうしてわかったんですか?」
「今現在、この番号にかけてくる知らない番号は、美羽ちゃんか海斗くんしかいない。でも美羽ちゃんが僕に電話してくる理由は見つからない。理由があるのは海斗くんしかいないだろ?」
「はい」
「アリスのことだよね?」
「そうです」
「アリスが言っていたよ。君はいろんなこと有耶無耶にしない人だって。普通は言いにくいことも、聞けばちゃんと答えてくれるし、わからないことはちゃんと聞いてくれる人だって」
なんで今そんな話?
「アリスのことが好き?」
「はい」
「何も言わず消えてしまうようなことをされても?」
「はい、大好きです。だからちゃんとアリスの言葉で理由を聞きたいです」
「他に好きな人ができたと言われたらどうする?」
「それはありません。アリスはオレのことが好きです」
「自信があるんだ」
「はい」
しばらく沈黙が続いた。
オレの根拠もない自信に呆れたんだろうか?
「学校が始まって、アリスに会っても、君からは話しかけないでやって」
「わかるように説明してもらえたら助かるんですけど?」
「君と話せて良かった」
一方的に電話が切られた。
もう一度かけたけれど、無残にもコールが鳴り続けるだけだった。
もう出てくれる気はないのは明白だった。
結局何もわからないまま、学校が始まるのを待つしかない。
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