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第4話 偶然の再開
学校が始まってからわかったけれど、4限まで授業があるとバイトの出勤時間がギリギリになってしまう。
遅れないように急いで行かないといけない。
バイトはこっちに引越してからすぐに始めたので、少しだけだけど慣れてきた。
住宅街の中にある隠れ家的なイタリアンのお店。
森の中にいるみたいに、お店を木と庭園が囲っていて、ここにいるとほっとする。
お客さんに外人さんが多いという理由から、採用条件は「語学」の一点で、未経験でも採用してもらえた。
今住んでいるマンションからも近い。
見習い中の今は、お客さんが来る前の準備と、帰った後の片付けがわたしの担当で、まだ接客はしたことがない。
「小暮さん、19時半からの4名様の予約、セッティングしてくれる?」
「はい」
チーフに言われて、ナイフやフォークをテーブルにセットした。プレートにナプキンワークを施したところで、
「いらっしゃいませ」
という声が聞こえたので、バックヤードに戻った。
「今日は昔からの常連さんがご家族でお見えなのよ」
と、チーフが教えてくれた。
家族で食事なんて素敵だな。
うちなんて最後に家族で揃ったのはいつだろう?
フィンガーボールの用意をしていると、
「小暮さん、急に予約入ったから、7番に2人分いい?」
と言われ、準備に向かった。
7番は、ちょうど19時に来た家族連れの隣の席だった。
すぐ横で、オーナーとお客が話しているのが聞こえる。
「…様、しばらくはこちらにいらっしゃるんですか?」
「1ヶ月くらいは。まずはここに来ないと、日本に帰って来た気がしなくてね」
「ありがとうございます」
「日本食じゃなくてイタリアンってとこが親父らしいよな」
「海斗さんはこの春から大学生になられたんですよね?」
「エスカレーターでそのまま鳳林大ですから、本当、勉強もしないで遊んでばかり」
「母さん、余計なこと言うなよ」
オーナーの軽やかな笑い声が聞こえる。
「どうぞ、ごゆっくりしていってください」
鳳林大……
海斗……
まさか、だよね?
それでも、なるべく、家族連れに背を向けるようにセッティングを済ませ、そっとその場を離れた。
8時まで新規のお客さんもなく、今いる人たちもまだ料理を楽しんでいたので、早番のわたしは厨房の片付けを手伝った後、あがることになった。
制服を着替えて、従業員出口から店の外に出ると、目の前に海斗が立っていた。
学校でのラフな格好とは違い、きちんとしたスーツを着ている。
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