くらくら 1

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くらくら 1

文化祭が終わり振り替え休日になった月曜日。今日は私の誕生日。夜中の零時にとりあえずお祝いが来た人に返事をし続け寝落ちして朝になる。気付けば午前中の約束の時間が迫っていて、急いで準備して家を飛び出た。 「ごめん!寝坊した……」 「大丈夫だよ葵ちゃん」  とあるカフェで会う約束をしてたのは寧音ちゃん。いつもの制服とは違ってワンピースにカーディガンを羽織っているけど、いつもの通り清楚で上品な佇まいをしている。先にソイラテを頼んでいたようだ。私は大抵カフェではコーヒーを頼んでブラックのまま飲む。 「それで?何から話す?」 「えっと、まずはあの、寧音ちゃんがかばっているの鏡花先輩だと思って、それで正直言って階段でのこと鏡花先輩かと疑ってた」 「うん、かばってたのは正解。でもさすがに階段から落とすのはしないって信じたかったから……黙っててごめんね」 「ううん、こっちこそ疑って問い詰めたりしてごめん。志希先輩が犯人捕まえてくれたけど、全然知らない先輩のファンだった」 「まぁ……いつものことだよ。志希ちゃんに群がる人たちってどうしてみんなあぁなっちゃうのかな」  寧音ちゃんはソイラテの入ったカップで手を温めるように両手で包み、呆れたような、どこか諦めたかのような顔をしている。 「あぁって?」 「志希ちゃんが一番で、周りが見えなくなっちゃう感じ。志希ちゃんって誰のものでもないですってスタンスだったくせに、円歌ちゃんには熱心だったでしょ?だから余計暴走したんだろうね……」 「そっか……鏡花先輩もそうなの?なんかしっかりしてて、そんな感じには見えないけど」  志希先輩って中学の時からモテてたんだ。きっとたくさんの女子の色んな揉め事に巻き込まれたんだろうな……。でも鏡花先輩はそういう女子たちとは違うタイプに見えるのに。 「鏡花ちゃんも最初は普通だったよ。今の葵ちゃんみたいに絡まれても適当に流してて……でも段々そばにいる時間が増えたらね、みんな一番になりたいって思うんだろうね。でもなれないから愛情が歪んでいくの」  寧音ちゃんの顔も苦しそうに歪んでいく。 「私にとっては志希ちゃんは昔から甘えん坊で、全然完璧だと思ってなかったのに、鏡花ちゃんはどんどん志希ちゃんが完璧であることを望むようになって。だから円歌ちゃんに感情を揺さぶられてる志希ちゃんのこと、認められなかったんだろうね。それで別れて葵ちゃんと仲良くしてるのが許せなかったんだと思う……そうだ、これ鏡花ちゃんから返してもらったよ」  寧音ちゃんはカバンから何かを取り出すと、私のほうへ差し出した。 「私のキーホルダー……鏡花先輩が持ってたの……」 「部活のことで晴琉ちゃんに会いに行こうとして葵ちゃんたちのクラスに行った時に落ちてたんだって。それで円歌ちゃんが同じの付けてたの覚えてたから、思わず持って帰ったって。でもね、信じてもらえないかもしれないけど、すぐに後悔して返そうとしたんだよ……それで私に相談してきたから急いで手紙書いて、体育の授業でいなかった葵ちゃんの机に置いたの。鏡花ちゃんには葵ちゃんに会って謝るんだよって言ったけど、葵ちゃんが志希ちゃんといるの見て、咄嗟に閉じ込めて逃げちゃったんだって……志希ちゃんにはバレたくなかったから」 「そうだったんだ」 「あのね……我がままなのは分かってるんだけど……このこと志希ちゃんには言わないであげて欲しいの……ダメかな。もちろん鏡花ちゃんには葵ちゃんに謝るように言ってあるよ」  寧音ちゃんはどうして鏡花先輩のためにそこまで……。 「もう返ってきたから良いけど……円歌のことはもう恨んでないんだよね?」 「それは大丈夫だと思う。葵ちゃんは知らないと思うけど、志希ちゃんね、犯人探すのに今まで見たことないくらい真剣で、本気で怒ってて、それ見て鏡花ちゃんも正気に戻ったというか。ちゃんと反省してたから」 「わかった。鏡花先輩とも寧音ちゃんみたいに話せたら分かり合えると思うし」 「ありがとう葵ちゃん」  ようやく笑顔になった寧音ちゃん。でも私にはもう一つ聞かないといけないことがあった。 「あとさ、寧音ちゃんに聞きたいことがあったんだけど……良い?」 「何?」 「志希先輩とどうして話さなくなったの?」 「……さっき言った通りだよ……みんな志希ちゃんと関わるとおかしくなっちゃうの。でも円歌は違ったから、見守りたいと思ったの」 「そっか。でもそれって志希先輩のせいじゃ……」 「わかってる。でも私にとって鏡花ちゃんは優しい憧れのお姉ちゃんだったのにどんどん歪んでいくのを見て苦しくて……志希ちゃんは自分を見てる人ほどちゃんと見ないでしょ。それに変にタイミング良いくせに、大事な時にはいないし。ほら、円歌に絡んでた人からかっこよく助けたくせに、落ちた時にはいなかった」 「それで話さなくなるなんて志希先輩がかわいそうだよ」 「そうだね……でもね、一回話さないことに慣れちゃうと、戻れなくなるものなの」  寧音ちゃんの言ってることも分かるけど、あまりにも志希先輩が不憫に感じてしまう。私が黙っていると寧音ちゃんの声色が優しくなった。 「葵ちゃん。私と志希ちゃんのこと心配してくれてありがとう。でも今日はそれよりもっと大事なことがあるんじゃない?」 「何?」 「誕生日なんでしょ?はいどうぞ」 「え、ありがとう。開けて良い?」 「いいよ」  寧音ちゃんは私に小さな紙袋をくれた。袋を開けるとあったものは。 「リボン?……なんで?」 「きっとほしいものは円歌でしょ?だからそれ円歌に巻き付けたらいいよ」 「えぇ?どういうこと」 「私がプレゼントって言ってもらえば?」 「なに言ってんの!」  なんというかもう、発想が。 「これ言ったら怒ると思うけど……寧音ちゃんと志希先輩って似てるとこあるよね?」 「怒るから二度と言わないでね?」 「あ、はい」  寧音ちゃんは笑顔だったけど、異様な圧を感じて思わず敬語で返事した。  その後寧音ちゃんと別れて、一旦家に帰ってお昼ご飯を食べて。次の約束は……。 「葵……おはよ」 「おはよう円歌」  誕生日の午後。私は円歌の部屋にいた。足を怪我した晴琉のために、晴琉の家で私の誕生日会を開いてもらう予定だった。でもその前に話がしたいと円歌から呼び出されていた。
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