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二兎追うものは……
クソ、本当に悔しい…………。
悔しいほどに国語の問題が解けてしまう。これが最新の教え方なんて認めないぞ………………。
さかのぼること、1週間前。春の季節を感じさせるように、窓の外を見ると一面がピンク。桜たちも温かそうに太陽の光を浴びている。そんな悩みも全て吹き飛んでしまいそうな、心地よい日につまらない授業なんか受けてられない。そう思い机にうつぶせて眠っていると、アイにペチペチと叩き起こされる。
「起きてください!授業が始まっていますよ。早く理科の教科書を開いて!」
「なんでお前!バーチャル技術の映像のはずなのに、人を叩くことが出来るんだよ……」
「私だからです!」
エッヘンと胸を張るアイ。それを見て俺は呆れる。やっぱり俺のだけ不良品だ…………。
すると、先生の不吉な宣告が聞こえてくる。
「来週のテストで赤点取ったら、再テストだからな〜」
俺が理科の問題を解いているときに、言われた言葉は深く心に刺さる。
「アイ、どこがテストに出るって?」
「ここを見てください!!」
アイが体を屈めて指を指す先には、憎き問題、溶解度。
「難しすぎるだろ!なんだよ溶解度って?」
「より多くの人に取り憑きながら、人間界に溶けこむことのができるかを表した度合のことです!」
「それ多分、妖怪度だろ!そうなってくると、理科じゃなくて、里香ちゃんの話になるだろ!」
少しばかり考えるように顎に肘をつけるアイ。
「それは多分、妖怪じゃなくて呪霊ですね。まあ、どれほどキレイに溶けてるかという観点では、溶解度も同じですけどね?」
「人間界に?」
「いえ、水中です!例えば、海に……」
その言葉を聞いてニヤリと笑う。たまには俺がボケてやろうとチャンスを伺っていたのだ!
「え?俺の名前呼んだ?」
「ここに来て、そんなに雑な名前呼びボケはしませんよ!あと、私はうみさんに勉強を頑張ってもらわないといけないんですよ」
いつになく真剣な顔のアイ。それを見て、ついにまともなAIに進化したのかと少しばかり感心する。
すると、アイは俺の感心に答えるように……。
「問題児の成績を向上させた分だけボーナスが出るので、絶対にここでいい点を取ってもらわないと…………」
「私利私欲かよ!AIなのに人間味が強ぇよ。やっぱり俺のポケットだけ、壊れてないか…………」
時計の針がカチッと動き、授業時間が残りわずかであることを告げる。
「こんなことを言い合っている場合ではありません」
ただまっすぐ視線を向けてくるアイ。本気の表れということだろう。
「そうだな、難しいから簡潔に、溶解度について教えてくれ!」
「人間の環境にどれだけ溶け込めるかです!」
「それ多分だけど、妖怪度だろ!分からないんだから、もっと詳しく教えてくれよ」
顎に手を当てて深く考え始めるアイ。すると、パッと閃いたかのように表情が明るくなる。
「妖怪度が低いと、人間界から取り残されてしまう…………そんな悲しい環境から脱却するために、努力していく必要があるのです」
「なんか理科じゃなくて、国語の問題みたいになってきたな……」
「そして、最後に塩化ナトリウムさんは、溶解度が高すぎたばかりに、蒸発をされて再結晶されるのでした」
「主人公、塩化ナトリウムなのかよ……。あと、終わり方が雑すぎる!」
ここで、先生がこちらに視線を向ける。
「うみ、ここの問題を解いてみろ」
どこの問題ですか?とは聞き返すことが出来なかった。だから、アイから教えてもらったことをそのまま答える。
「まずは、目的はなんだ?」
目的?溶解をするための目的か!
「人間の環境に溶け込むことです」
「そうだ!すごいじゃないか!」
まさか本当にその正解しているとは!これならいける!
「じゃあ、その勢いで、この場面での主人公の気持ちは何だ?」
なるほど、塩化ナトリウムの気持ちということだな!
「人間の環境から取り残されてしまうんじゃないかという不安な気持ちです。」
「正解だ!すごいじゃないか!そしたら、この後の展開を予想してくれ!」
待ってましたと、僕は先ほどの知識を自慢するかのようにひけらかす。
「溶解度の高い塩化ナトリウムは蒸発させて、再結晶します!」
「それは理科の溶解の問題だろ。今聞いているのは、国語の、化け狐が人間界に潜みながら暮らす物語だろ?」
え?どういうことだ。この授業は理科じゃないのか?とアイの方を見る。すると、イタズラな笑みを浮かべて答える。
「理科と国語、同時にしたほうが効率がいいかなって!まあ、失敗して、みんなの前で恥かいた方が覚えやすいし…………テヘ☆」
ふざけんな~~~~~~~。俺は誰にも聞こえない叫びを、心の中で上げるのだった…………。
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