その勇者の結末は

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その勇者の結末は

 あるところに一人の勇者がいた。 勇者は、魔王を倒すために神に選ばれた。  不死身と破壊の力を持つ魔王は、現在は魔界に封印されている。  いずれ目覚めて世界を(おびや)かす存在となるだろうと、神は言った。  勇者は三人の仲間を集めた。  一人は神官。 丁寧な口調の優男だった。  一人は魔法使い。 天真爛漫で気高い少女だった。  一人は武闘家。 彼女は武人で、正義を貫き続けた。 四人は世界中を旅して回った。  魔王を倒すためには、世界中の人々の願いによって生まれる、虹の欠片を集める必要があることがわかった。 虹の欠片は願いを叶える力を持つ。  使い方次第では不死身の魔王すら滅ぼすほどの大きな力を持つという。  勇者一行は世界を巡り、虹の欠片を集めて回った。  たくさんの人々に感謝され、虹の欠片はようやく全て集まる。 あとは魔王城に近々君臨するであろう魔王を、勇者が滅ぼすだけ。  勇者一行は、魔界にある魔王城に乗り込んだ。    ここまで長かった。  勇者として選ばれて、三人の仲間を集めた。  魔王を倒す為に虹の欠片を集め、ここまで来るのに数年は要した。  最初は自分を含めてみんなが見習いや初心者だった。  多くの経験と修行を積み重ね、今や歴戦の猛者と(うた)われるほど。 人々からの期待と希望を背負ってここに来た。 倒せませんでした、では許されない。 そのつもりもない。  あとは今この瞬間にも目覚めてもおかしくない魔王を仲間たちと倒す。 それだけだ。  魔王城内部を駆け抜け、魔王がいると思われる部屋の前にまでやってきた。 重厚(じゅうこう)禍々(まがまが)しい扉の前で立ち止まる。  魔法使いがこちらに目配せした。 武闘家が好戦的に笑う。 神官が守りの加護を自分たちに(ほどこ)す。  そして(勇者)は扉に手をかけ、力を込めていた。  重くてゆっくりとしか動かない扉を無理矢理こじ開ける。 けれど、  「あ、れ…?」  はたして、そう言ったのは仲間の誰だったであろうか。 物々しくも、恐ろしいほど広い空間にあるのは豪奢(ごうしゃ)なシャンデリア。 中央に鎮座(ちんざ)するは魔王の王座。  しかし王座には、魔物はおろか誰の姿もなかった。
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