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気づくと、神官の槍が武闘家の身体を貫いていた。
俺は今まで好意を寄せて、この戦いが終わったら結婚をしよう。
そう、約束していたはずの魔法使いの細い首を、絞めあげていた。
「か、は…ッ、勇者…どう、して…?」
魔法使いが声を漏らす。
「は………?」
呆然と口から出た己の声。
同時に、大きく響くは神官の声だった。
「ひゃは…ッ、ひゃはははは!!
あはははは…ッッ!?
わたくしは、この時を…このときを、ずっと!ずっと!!
待ち望んでいたのです!!!」
神官が槍をなぎ払って、武闘家の身体が遠くに跳ねる。
神官が闇に包まれて、姿が変化した。
長い金髪が白銀に変わる。
耳が長く尖り、肌が朝黒い褐色へ。
清められたローブが脱げたと思えば、肌の露出の高い闇色の衣装へと。
「いったい、なにが、おきて…」
いったい何が起きて、こいつは何を言っている?
頭が可笑しくなったのか。
それとも可笑しいのは俺自身か。
そうでなければ説明がつかない。
気づいたら、大切な存在である魔法使いの首を絞めているなど。
神官が俺を見た。
うっとりと、恍惚とした様子で。
「ああ、嗚呼…お分かりにならないのですね?
ですが、それも時間の問題。
これも魔法使いのせいでしょう。
こやつは聖なる神の生まれ変わりですからね。
貴方様の記憶を錯乱する魔法を使っていた。
しかし、もうすぐにでもこの女は死にます。
じきに貴方様のその記憶も戻るでしょう!
貴方は勇者ではなく、本来は魔王であられる御方なのですよ!!」
魔王?勇者ではなく、本来は魔王?
頭痛がする。酷く頭が痛む。
頭だけではない。
身体中が張り裂けそうなほどの激痛が走る。
「ぐ、う…ぅ、ああああ…ッ!!」
咆哮をあげていた。
同時に、手に力を込める。
『ゴキン』と音をたてて、愛する魔法使いの首が折れる。
「ああ…俺は…」
その身体を投げ棄てる。
同時に、俺はすべての記憶を取り戻していた。
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