その勇者の結末は

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 俺は本来、魔王だった。 世界を手に入れる為、世界を征服する為生まれた破壊の魔神。 それを神は許さなかった。  神の力で無理矢理封印された。 しかし憎悪の力を呑み込み、神にも等しい俺を完全に消す事は、神でも叶わなかった。  神は全ての力を持ってして、封印された俺の魂を肉体の生まれる前に人間に変えた。 そして勇者として記憶を操作した。 己で己自身を殺させる為に。  そばにいた魔法使いは道具。 守りの神の生まれ変わりだった。 俺を勇者として(とど)めておくために抑制(よくせい)する力だった。  俺が魔王として再び目覚めた瞬間、虹の欠片の力でこの世から消す。  それが神の目論(もくろ)みだったのだろう。  しかしこちらには一枚上手な側近、悪魔神官がいた。  神の目すら(あざむ)いて仲間として紛れていた悪魔神官によって、神の定めた予定は崩れた。 決められていた運命は、脆くも崩れ去った。    「くく…よくやったぞ。悪魔神官? お前のおかげで俺は目覚められた。」 ひび割れるような笑い声。  かつて勇者だった男は、とうとう魔王として目覚める。 勇者の鎧は闇に染まり、漆黒の鎧に変わる。 勇者の兜は、闇色の宝石が輝くサークレットに変わる。 勇者の剣は、禍々(まがまが)しく狂気的な魔王の剣に変わる。 肌は血色が良い肌色から青白くなり、髪が長く伸び、耳が尖る。 純真な瞳は、(うつ)ろに変貌(へんぼう)する。 放つオーラが、聖なる光から鬱々(うつうつ)とした闇の力に変わった。  悪魔神官はうっとりと、恍惚(こうこつ)とした表情で見つめ、  「我が麗しき魔王様…ッ! とうとう、目覚められるのですね!?  貴方(あなた)の目覚めるその時を、わたくしはずっとお側で、今か今かと待ちきれませんでした。」 (うやうや)しく頭を下げる。 魔王は悠々と(わら)う。  「…今や、この世界を手にいれるのは容易(たやす)きこと。  この虹の欠片を使えばな。」  魔王は今まで集めてきた虹の欠片の力を放つ。 聖なる光りを放っていたそれは、魔王の手によってあっさりと闇に染まる。  「まず手始めに、神を殺して世界を手に入れる。  神は俺に世界征服を目論(もくろ)む魔王を倒せと、かつて言ったが…。  俺は世界征服ごときで終わるつもりはない。」  「ご立派です、魔王様! 貴方(あなた)様ならば、如何様(いかよう)な願いでも叶えることが可能でしょう。  わたくしは、そんな貴方(あなた)様を信じて待っておりました。」  「戯言(たわごと)を。 お前は、それが叶うかどうかすらわからんのによくやったものだ。」 悪魔神官は頬を赤らめる。  「ふふ、叶いましたではありませんか。 わたくしの願った魔王様のご帰還は叶った。 …これからは未来永劫、貴方(あなた)様のお側に。」 悪魔神官がひざまずいた。  かつての仲間達の屍には目も暮れず、魔王は高らかに(わら)っていた。
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