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隣部屋の男女の営む声が悩ましく耳に木霊して
青年は暖房のない部屋で
大の字に寝て涼しさよ淋しさよ
と小林一茶の句を詠み
夏じゃあるまいし自虐的だなシニカルだなと思って
背筋に悪寒が走った
我知らずぶるぶるっと身震いして立ち上がり
居たたまれず外へ出て
どうしようもない自分が歩いている
と種田山頭火の句を捩りながら彷徨い
いつしか誰もいない公園のベンチにぽつねんと座る自分に気づく
こんな風にしていても
大地震で被災して地獄の生活を強いられる人たちに比べれば幸運なこと
けれども非正規雇用で食いつなぐしかない
どうしようもない自分
彼女を作るなぞ夢のまた夢
死にたいけど死ねない
どうしようもない自分
中年は中年で給料が下がったから
正規雇用でも副業をやらざるを得なかったりして
絶えず働くゆとりのなさ
日本の財政は鰐の口のよう
相も変わらず真の文化国には程遠い
死神よ
どうかもう死んでも良いと思わせるに充分なセックスフレンドを与えてくれ
なぞと非現実的な希望を抱く
どうしようもない自分
こうなったら立ちんぼに梅毒でも移してもらうかなぞと思ってしまう
どうしようもない自分
青年は多くの犠牲者の一人
若くしてどうしようもなくなる人間が陰で死にかけた虫のように犇めき蠢く
こんな国に誰がした
親も教師も資本家も官僚も政治家も有権者も猫も杓子も結局
ムラ社会に安住する同じ穴の狢
みんな悪い
と彼は思う
けれども誰も責任を取らない
そもそも責任を感じていない
剰え他人の所為にするな
努力が足りんなぞと無責任なことを言い
改めようとしないばかりか弱者を切り捨てる
どうしようもない国
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