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第14話 隠しごと
「ライズくん」
そのとき。
ライズの視線に気づいたのか、不意にリィエンが話しかけてきた。
「まだ、このことは黙っていてくれないかな?」
「……」
リィエンが伝えてきたのは、明らかに不審な言葉だった。
けどヴァンもフィフィーも、特に気にした様子はない。
聞こえていないのだ。
リィエンが密かに使っている、もうひとつの密談の魔法のせいで。
思い起こせば、応接室行きを断られたあのとき。
密談の魔法を使うのはどうかと提案したのはリィエンだった。
どうやったかはわからないが、リィエンは密談の魔法を唱えたとき、同時にもうひとつ。別の密談の魔法も発動させていた。
それを知ったのは、校舎に入る直前。
魔法執判官のふたりが校舎の中に気を取られているときで、彼はライズの肩を叩くと突然、こう言った。
——今、密談の魔法を内緒でもうひとつ使っている。
僕とライズくんだけを対象にしてあるから、魔法執判官にも聞こえない。
こっちで話すときは口を動かさないようにするから、ライズくんも、このことは秘密にしておいてほしい、と。
いつの間にか、橙から真っ赤に変わった夕日を浴びながら。
そう語ったリィエンの唇はたしかに、ぴくりとも動いていなかった。
これが彼の特技なのだ。
そしてこれは、密談の魔法と非常に相性がいい。
密談の魔法は、たしかに話が漏れることは防いでくれるが、口の動きまで隠してくれるわけじゃない。
だから普通は、話しだした時点で密談の魔法を使っていることがバレてしまうのだが——彼のようにしゃべっていることすら隠してしまえば、魔法の存在そのものを隠し通すこともできる。
けど。
(なんのために?)
それが、ずっとライズの中でくすぶっている疑問だった。
彼はなんのために、それこそバレたら追求されたり疑われる可能性だってあるのに、こんなことをしているのか。
それが明らかになったのは——。
「ああ、そういや追加でお聞きしたいんですが」
「なんでしょう」
魔法薬学保管庫までの長い廊下を歩きながら。
不意に尋ねてきたヴァンに、いち早く口を開いて応じたのはリィエンだった。
彼は顔に薄く笑みをひくと、さりげなくライズを影に隠すようにヴァンの前に出る。
「事件が起きる前、最後にあの部屋をいつ、誰が使ったかって、わかりますかね?」
「それは……」
少しだけ、間が空いた。
けどそう感じたのは魔法執判官だけで、そのときライズの耳には、はっきりとリィエンの声が聞こえていた。
——お願いだから。
これから僕がつく嘘を、覆さないで欲しい、と。
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