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第20話 最大の疑問
「なぜだ?」
全員の疑問を代弁するかのように。
重苦しい、それでいて鋭さを含んだ声が、死体発見の報を受け魔法薬学保管庫に集った教師たちに降りかかる。
声を発したのはこの場でもっとも険しい顔をした壮年の男——プリエール魔法学校の校長、ブラスヴァリーだった。彼は眉間に深いシワを刻んだまま、思案するように死体を見下ろしている。
「……」
教師たちは皆、萎縮したように黙っていた。
いや、唯一ライズだけは何かを答えようとしたが、その前にブラスヴァリーがもう一度口を開いた。
「説明しろ」
ぎろり、と。
睨むような顔がライズのほうに向けられる。
だがライズを見ているわけではないことは、隣に立つリィエンにもすぐにわかった。
ブラスヴァリーの視線は、ライズよりもさらに奥。壁の一角に注がれていた。ほかの教師たちもつられてそちらに目をやる。
そこにはなんの変哲もない壁と。
「……っ」
怯えたように身を寄せ合う、少女の姿をしたモノたちがいた。
モノ、と称したのは、彼女たちが本物の人間ではないからだ。この薄暗い保管庫の中で、ほんのりと蛍のように淡い光を発する彼女たちは、精霊だった。
教室にいた精霊はただ佇むだけで感情らしいものはほとんど見られなかったが、ここの精霊たちはみな、不安げな眼差しで教師たちを見返している。
「わっ……わたしたちは!」
そんな精霊たちの中でただ一人、声をあげたのは警備隊のような制服を着た少女だった。
彼女は精霊たちを代表するように前に出ると、威圧するようなブラスヴァリーの厳しい視線に晒されながら、苦しげに言葉を紡いだ。
「わたしたちは間違いなく、学校のすべてを見張っていました。わたしたちの守りは——『決闘防止システム』はどんな傷害も、それこそ殺人だって、気づいて防げるはずでした」
そう。
これが教師たちの最大の疑問だった。
この学校ではどんな些細なものであれ、相手を傷つける行為に及んだ瞬間、精霊がそれを感知し防止するようになっている。
つまり、この学校で精霊に気づかれずに誰かを傷つけることなど、到底不可能なのだ。
「ですが」
幼い顔立ちに似合わないほど、少女の顔が強く歪む。
澄んだガラス玉のような瞳の真ん中には、床の暗がりと、ぴくりとも動かないまま横たわる少年の姿が映っていた。
悔しげに、少女が言葉を吐く。
「わたしたちは、死体を見つけるまでなにも——なにも、感知できなかったのです!」
そして、物語は翌日に進む。
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